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【映画レビュー】カード・カウンター

かなり終盤まで、それこそ残り20分くらいまでは、なんて最高の映画なんだと思って見ていた。あれ?え……そっち行っちゃうの?みたいな展開に急になってしまって、ガッカリって訳じゃないけど期待とは外れていっちゃったな、でもやっぱりいい映画ではあったなという印象。

もう本当に、主演のオスカー・アイザックとそれを取り巻くすべてが素晴らしい。刑務所を出て、カジノで地味に少額を稼いで生活している孤独な男の姿が淡々と描かれている。これはたぶん評価が真っ二つに割れると思うんだけど、その様子が地味で退屈だと思う人もいれば静かでクールでめちゃくちゃカッコいいと思う人もいる。私は後者だ。
カジノという派手な非日常の場所をただの生活の一部としてどこにでもある場所として描いたり、主人公の泊まるどこにでもあるモーテルを主人公のルーティーンによって異質な場所に見せたりする。セリフも映像の作り方も情報の出し方もめちゃくちゃ上手くて、映像のすべてがカッコよくて惚れ惚れする。

ただ、そのダンディな色気に満ちた主人公は苦悩を抱えている。孤独に地味に淡々と生きているその理由を知ってしまったら、彼を渋いとかカッコいいとか思ってしまうミーハー心を恥じてしまうような、取り返しのつかない苦悩だ。でもカッコいいんだ、彼も、映像も、この映画のすべてが。
そんな彼の前に、大金を掴めるポーカー大会へ勧誘する女性エージェントと、過去との繋がりから若い青年との出会いがある。その二人との出会いが彼の生活をどう変えるのか?という辺りがこの映画のメインの部分だ。

正直、その変化が思ったような方向に行かなかったというか、ぶん投げちゃったなという印象だった。そういうぶん投げをする理由は理解できるようにちゃんと描かれているのだけど、ぶん投げずにちゃんと結末を用意するのだろうと期待していたので、そういう意味でちょっとガッカリした。
でも、もしこれが30年前の映画とかだったら、そういう全てを完璧に処理しようとしない所も強烈な魅力になったかもしれない気もする。去年公開の映画だから、現代映画らしい型に収まるだろう事を期待してしまっているだけなのかもしれない。

とにかく、もうめちゃくカッコよくて渋くて静かで映像が素晴らしかった。強烈に残虐なシーンもあるし、誰もが楽しめるわかりやすさもないけど、でもこれ「カッコいい」の一つの頂点なのではないかと思う。

『カード・カウンター』 3.5

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