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【映画レビュー】Mr.ブルックス ~完璧なる殺人鬼~

賢くて地位も名誉もある殺人鬼の物語。欲と理性の間で苦悩し、結局その理性をフル活用して冷静に殺人をやり遂げ欲を満たす。どの登場人物にもあまり自己投影しないのだけど、しかしその苦悩を理解できるし、入り込みすぎないのでいち観客として物語を楽しめる良い映画だ。

一般的に、サイコパスが犯罪者のストーリーは失敗しやすいと言われる。私もその意見には賛成だ。物語の中の犯罪は「なぜやったか」が重要で、サイコパスの犯罪はどうしてもそこが弱い。だた、スマートに感情に流されず冷酷に犯罪を遂行する犯人は魅力的なので、サイコパス犯罪者のストーリーは作られやすくて、そして失敗する。
この物語の主人公は、厳密に言うとサイコパスではない。でも、サイコパスのような賢く冷徹な男が完璧な犯罪をやり遂げる。しかもその理由づけが、ちゃんとある。その苦悩を理解できるし、しかし賢いので苦悩に引っ張られ過ぎない、ちょうど良い感じだ。

この物語の主人公の殺人鬼は、会社社長で社会的地位が高く、表の生活は満たされている。困り事と言えば、バカなひとり娘が大学を辞めて家に帰ってきたぐらいだ。成功者の彼が殺人を犯すのは殺人依存症だからだ。依存症は本人にどうすることもできない衝動で、気の毒なものだ。もちろん、依存症なら仕方ないから殺しても良いよと言う訳にはいかない。しかし、どうにもできない衝動を抑えようとしながらズルズルとそこに向かってしまうのは、いかにも依存症という描写で仕方ないなという納得感がある。
主人公は抗えない依存症のために犯行を重ねるが、周到に準備したりルールを作ってそれを守ったりと捕まらないようスマートに行動する。しかし、ちょっとしたミスで自分の身に危機が訪れたり、そのルールを破らざるを得ない状況に陥り、その状況をどう切り抜けるのか、あるいはこの苦しい生活を投げ出すのか、という話だ。

私はミステリー作品はあまり自分が謎解きをすることに拘らず、眺めて楽しむスタンスなので、ヒントを出しすぎずスマートに事が運んでいくのがとても気持ち良かった。もしかしたら自分で謎を解きたいタイプの人は不満に感じるのかもしれない。

『Mr.ブルックス ~完璧なる殺人鬼~』 3.0

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