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弓張月(山下弓)
2021年11月26日 09:57
香りがないという椿の花はどうやって蜜を運ぶ虫をおびき寄せようとするのか蜂たちにも欲情があるかの如くその佇まいは妖艶でどこかなまめかしいつぼみの頃は固く幾重にも花びらを重ね閉じているけどいったんその花弁がほころびだすとついつい雌しべに辿りつくまでその花房を剥いてしまいたくなる知らず知らずのうちに負わされた役目を全うせんと限りなく中性であろうとしてきたけれど私の中にいるもう一人
2021年11月12日 08:49
記しておきたくて残しておきたくてだけども誰にも分からないように秘密の暗号をそっと手帳に載せるのですこんな夕刻は殊更に人をおセンチにさせてしまいますひと月見開きのスケジュールの中にどれだけあなたの痕跡を置けるのでしょうその印ひとつであの時の情景が克明に浮かび上がりますむしろ写真より単純な数字の羅列の時刻表の方が思い出をまざまざと蘇らせてくれます塀の上を歩くように線路をなぞ
2021年11月5日 08:57
「今度ははんたい」何度こうして私の膝枕で貴方の頭をくるくると回してきたことでしょう いつもは威勢のいいあなたもこの時ばかりは借りてきた猫のように言葉少なく 少し照れるように顔を押付けて私のほうへ顔を向きなおした 必ず順番は決まっているまずは左耳を上に受け私は背中越しに耳を撫でるその時あなたは気付いているでしょうか いつも決まってつぶやくように少しだけ私に言いにくいこ