見出し画像

「カメリア」

香りがないという椿の花は
どうやって蜜を運ぶ虫をおびき寄せようとするのか
蜂たちにも欲情があるかの如く
その佇まいは妖艶でどこかなまめかしい

つぼみの頃は固く幾重にも花びらを重ね閉じているけど
いったんその花弁がほころびだすと
ついつい雌しべに辿りつくまで
その花房を剥いてしまいたくなる

知らず知らずのうちに負わされた役目を全うせんと
限りなく中性であろうとしてきたけれど
私の中にいるもう一人の私が触覚を立てだした
張りつめた寒気の中でその存在感を放つ
朽ちかけた椿と私の心が重なった

女なんてもう忘れてしまってもいいと思っていたの
甘く華やかな記憶の中の思い出として
時々取り出して懐かしむくらいのもの
そんなふうに諦めていたのです

なのに貴方の声が私を引き戻す
もう失くしてしまっていたと思ってた
鍵を持っていたのは貴方
もう失ったものは取り戻せないと思ってた
扉を開けて溢れ出す情をすくいだしたのは貴方

少しづつ老いていくだけの人生だと思っていたけど
やっぱり最期の最期まで女であり続けるのだと
朽ちても枯れていっても
妖しさだけは残っていました
この命、全うしたら「カメリア」の名に恥じぬよう
花ごとポトリと堕ちましょか

Photo by Hiromi Shibazaki

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?