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みんなとマリファナの話をしよう vol.1

昨年「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋)を上梓した後、いろんな分野の専門家と、マリファナ/カナビス/大麻の問題を、様々な観点から対談したものを、「みんなとマリファナの話をしよう」という副読本にまとめました(Sakumag.comで発売中)。そのnote版がこちらになります。Kindle版は只今営利準備中。計73000字。

医療とマリファナの話をしよう 正高佑志(医師)/ 若林恵(コンテンツ・ディレクター)

2019年8月5日、「真面目にマリファナの話をしよう」刊行を記念して、開催した#こんにちは未来 の公開録音イベントから。映画「Weed The People」を上映した後、一般社団法人Green Zone Japanの代表理事で医師の正高佑志さんをゲストにお迎えしてトークを行いました。


若林恵(以下W) 僕、今日のイベントのため昨日Netflixで、「Grass Is Greener」というマリファナとアメリカの音楽をテーマにしたドキュメンタリーを見てきたんですよ。興味ある方ぜひご覧なったらいいと思うんですけど、マリファナをめぐる問題ってのは、ゆみちゃんの本を読ませて頂いてもわかるんですが、色んな論点が錯綜してて、なかなか複雑で。結構大変な話。そうじゃない?

佐久間(以下S) 大変な話なんですよ。だから4年もかかっちゃったんですよ、書くのに。

W 随分前から出る出るって言ってたもんねえ。だって、この本、いつ出る予定だった?

S 予定とかなかったんですけど。

W 2年前くらいから、「あとちょっと」って言ってたじゃん(笑)。

S ずっと進化し続けるから、「筆をどこで置いたらいいかわからない問題」があって。さっきの映画の最後でもありましたけど、政治的な空気感で変わるからね、いろんなことが。ジェフ・セッションズ(注:トランプ政権発足時の司法長官、アンチマリファナの強硬派)が任命された時は、また戻るのかっていう空気感は一瞬でたんですよね。ところが移民法のゴタゴタとかがあって、ジェフ・セッションズが辞任という形のクビになったから、大丈夫かなという空気が広がったと。

W 今日お二方にお伺いしたいのは、マリファナの本を日本で出したり、いわゆるマリファナについての認識をあげて行こうという活動を通じて、要は何が言いたいのかというところなんですね。マリファナって文化的な論点も、政治的な論点も、社会的な論点もあったりと非常に複合的な問題をもってるわけです。そのどの部分を日本に対して語りかけるようとしてるのか、というところですね。正高先生はずっと、この映画『Weed The People』を、広くみなさんに見ていただくことを活動としてされているわけですが、そこで一番発信したいメッセージは何なのか、と。アメリカにおけるマリファナの問題は、人種差別から刑務所のシステムから代替医療から経済政策までと、いろんなテーマに及ぶわけですが、身近に「パフ〜」ってやる文化がないところでマリファナの問題を日本で扱うのは、かなり唐突に見えかねないように思うんです。というわけで、今日はその論点を整理するという意味で、日本でそれを問題にするということは、何を問題にすることなのかという、その辺りをお話できたらと思います。

S はい、じゃあ私から。私はアメリカに20年以上住んでるんですけど、私がアメリカに移り住んだ96年というのは、カリフォルニアが合法化した年だったんですね。日本で持たれている認識を教えられてきたことと全く違うなと思いながら、それを別にあえて触りたいという風には今まで思わなかったんだけれども。それこそコロラドが嗜好用、レクリエーショナルも合法化するとなった時に、おっとなって、これは文化的にもアメリカ史に残るパラダイムシフトなんじゃないかと思って、それこそ当時、他にその記事を書かせてくれる媒体とか思いつかなかったので、とりあえず『WIRED』日本版の編集長だった若さんに、取材したいしたいって騒いだでしょ。最初、「まぁ落ち着け」みたいな反応だったと思うんだけど、コンデナストという会社も外資なんでオッケーにしてくれたわけなんですよね。私は、エゴの塊だから、その時は、日本で一番最初にそれを記事にする人間になりたかったの、とりあえず一番にやりたいという。やったら満足したんだけれども、そうしたら文藝春秋さんからメール頂いて、本にしませんか、と。最初は、え、文藝春秋から本を出せちゃうのっていう、結構割と受動的なことで、そんなチャンスがあるんだったらやりたいかもっていう程度だったんですね。だから取材し始めたりした時は、アメリカでこんなことになっていますよ、っていうだけで、ストーリーとしてすごく面白いし、でも調べ始めたらもうすごい複雑な話ですよね。人権的な面もあるし、医療的な面もあるし。医療的な面なんか本当に私、算数と理科で終わってるんで。

W 同じく(笑)。

S そう。当初は、医学論文とか読んでも本当に分かんないし。だから平坦な言葉で説明してくれる人をあたって、どういうこと?と重ね続けたやり続けて、それで最終的には私の理系の脳が全く無い頭でも理解したと思えるところまできた、というところなんですよね。

W 逆にいうと、日本て、こういう言い方は語弊があるかもしれないけれど、マリファナをめぐって、そこまで大きな「問題」がないわけだよね。もちろん麻薬が社会的に広まるのはよくないと多くの人が思ってるとは思うけれど、そこまでプライオリティの高いイシューではないと思うし、芸能人が見せしめのように逮捕されても、社会全般に関わる問題というよりは、特殊な人が関わっている特殊な問題という意識のほうが強いように思うのね。そういうなかであえて、こうやってマリファナに関する話を聞きにくるような方がいるってね、むしろ謎だな思うんですよね。どういう課題意識なのかと。だから、ゆみちゃんの本が出ることによってどういうリアクションがあるのかというのは、ちょっと楽しみではある。

S そうですね。でも私は、人権イシューというのはアメリカにおいては例えばマイノリティが、嫌がらせ的に警察にグイグイやられる問題はあるんだけども、でも日本でも逮捕とかして吊し上げるほどのものかと思っていて、でも今実際増えてるわけだから逮捕される人の数が。

正高佑志(以下M)今、3000人ぐらいの人が逮捕されていて、それをだから問題と感じるか、感じないか、ということになると、身近にそういう人がいるかいないかとかそういうレベルの話なのかなと思うんですけれども。そこにやっぱ僕は問題があるんじゃないかという風に感じているタイプの人間ではありますよね。

S そもそも正高先生はどうしてこの活動をするようになったんですか?

M そうですね。自己紹介がてらその話をさせて頂きますと、僕自身が医療大麻の活動をし始めたのはもうすぐ3年というところで、そんなに古くからやってるわけではないんですよね。きっかけは2016年の10月ぐらいにカリフォルニアに行ったことなんですけども、当時私はフリーランスの内科医として働いていて。かっこいいでしょ。大門未知子みたいな。

W ブラックジャックっぽい(笑)。

M いやそんなにいいもんじゃないんですけど。東京で救急病院で働いたりとか、カンボジアのクリニックでちょっと働いたりとか、インドのマラリアの臨床研究手伝ったりとかしてて、その中で縁があってアメリカの西海岸で、医療用に大麻を合法的に使いたいという人がいて、アテンドみたいな感じで一緒について行ったんですよ。その方、今愛媛に住んでる日本人で、昔はスポーツ選手としてバリバリやってたんですけれども、ある日、頭痛と熱が出て、救急病院に運びこまれてそのまま意識がなくなって、目が覚めた時には神経がズタズタになってて足が動かないと。急性の散在性脳脊髄炎、アデムという珍しい脳の自己免疫の病気だったんです。それでリハビリを一生懸命何年もやったんですけれども、腰から下の部分に麻痺が残って良くならないと。足が突っ張ったまま曲がらないんですね。そういう症状に対して何が効くのか自分で調べたら大麻が効くんじゃないかということがわかって。実際行ってみて、彼が大麻を使う様子を実際に隣で見てたんですけれども、非常に良かったんですねそれが。そういうことに関して、研究はされているのだろうかと思って調べてみると、もうすでにヨーロッパでは同じような症状に対する薬剤になってて。大麻由来の製品サティベックスと言ってもう販売されている。という状況を知って、当時アメリカでは大塚製薬さんが臨床試験やってたんですが、でも全然日本ではそんなこと誰も知らないし。僕がそうやってカリフォルニアにいるときに、高樹沙耶さんが逮捕されたんですね。それで日本のメディアがわーっとなったじゃないですか。その時に彼女は、医療大麻ということを言っていて、でもそれが逮捕されてバッシングされるような形になって。カリフォルニアで実際に見てる僕の目の前で起きてることと、日本の報道が真逆ですよね。

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