言う
ほんとありえない、山は、何度めかの相槌で共感を示した。注文した品が未だ運ばれてこないから、小さめのテーブルには、水の入ったコップが二つ、虚しく並んでいるだけだった。
「バレンタインは何か渡した?」
「いや、向こうバイトあるからって。会えないって分かって、もういいやって思っちゃって。二週間くらい会ってない」
奈央は聞いてよ、とばかりに話を続ける。
「前もさ、今日話したいことがあるんだけど、って突然ラインが来て。私、その日中に提出の課題がまだ終わってなくて、すごい焦ってたの。それで、とりあえず20時には終わらせるから待ってて、って連絡したの。そしたら……」
「やっぱいいや、とか言われた?」
「惜しい。何とか課題終わらせて、夜に電話して。そしたら、ただ奈央の声が聞きたかっただけだよって」
山が口を開く前に、お待たせしました、と言う声がした。二人の間に置かれたのは、真っ青に輝くクリームソーダだ。ひと通り「わー」とか「かわいい!」とかはしゃぐ。お互いに写真を撮り合う。その様子にふと、二人とも高校の時から変わらないな、と山は感じた。山にとって、奈央はずっと大切な親友だった。
「コウくん、奈央にかまってほしかったのかな。男らしくないっていうか、ちょっと幻滅したかも」
「そうそう、この間もさ……」
奈央とコウくんは、どうやらこの所うまくいっていないらしかった。久しぶりに会った奈央は、ずっとコウくんへの不満を漏らしている。うんうん、ほんとありえないね。山は全面的に奈央への共感を示しながら、心には一つ、引っ掛かりを抱えていた。
「でも、それはそれとして、今、奈央がその先輩?とそういう感じになってることは、いいことではないじゃん?」
「それな」
「いや、それなじゃなくて」
「私もこの前先輩に言ったのよ。遊びならやめてくださいって。私今ならまだ引き返せますからって」
悪びれもなく言う奈央に、山は少しイラっとした。奈央の話によると、授業で班を組んだ男の先輩と、最近いい感じらしいのだった。授業で話すようになって、連絡先を交換して、二人でご飯に行って……。それって、もしや浮気の一歩手前じゃないか?
「コウくんはどうするの?」
「言わなきゃ絶対バレないよ。それに私だって理性はあるから、別に先輩に本気になってるわけじゃないし。ただ先輩がぐいぐい来るから、断るに断れなくてさ」
そう言いながら、奈央は満更でもなさそうだ。ここは親友の私が、はっきり言ってあげないといけない。
……ほんとありえないっ!
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