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マルシェ劇場

アリさんとアリさんがこっつんこ。
”おつかいありさん”の歌詞が浮かんだ。

ありさんと言っては失礼かもしれない。
でも、人が人と会って話している、
その光景を見ていて
いいな、と思ったのだ。


八百屋さんのマルシェの前を
人が行き交っている。
週に数回、駅からほど近いところに出す
小さなテントのマルシェ。

マルシェのテントのこちら側から見る街は
劇場のスクリーンのようだ。

お店番で手持ち無沙汰な時、
私はその映像をぼんやりと眺めることを
一人楽しむ。

スクリーンにはいつでも
暮らしている人たちが、歩いている。

歩いているからこそ
立ち止まって挨拶も話もできる。
歩いているからこそ
人とこっつんこするのだ。

観光地でもない
繁華街でもない
暮らしている街だから
人と人が言葉を笑顔を交わすのだ。



マルシェに立ち寄る人も
ここに暮らす人たちだ。
お野菜が大好きという言う人と
旬の話をし
調理の話をする。

『美味しい』が話の真ん中にある時
人は幸せな気持ちを共有しているのだなと
嬉しくなる。

歩いて立ち寄った人と
あれこれ言葉を交わして
歩いて帰っていく背中を見送る。

立ち寄らない人も「また今度ねー!」と
道の向こう側から手を振ったりする。

「にんじんの葉っぱが元気ねえ」と
微笑んで通り過ぎる、犬の散歩の人がいる。

マルシェの真ん前で
おじいちゃんが「おっとっと」となって
慌てて駆けつけたり、

泣き止まない子供に
お手上げになっているお父さんを
心の中で励ましたり、

マルシェ劇場で繰り広げられるシーンは
ジャンルも登場人物も
ひとくくりにはできない。
暮らすとは、こんなに賑やかだったんだ。


看護師をしていた時には
観たことがなかったこのスクリーン。
新しい世界に辿り着いたかのような気分で
今日もマルシェのこちら側に座っている。

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