見出し画像

インバウンドからの脱却とは言うけれど

最近、知り合いの記者さんから「インバウンドからの脱却」をテーマにした案件を探しているのでリサーチさせてほしい、という依頼がありました。

たしかにここ数年の観光業・ホテル業にとってインバウンドの重要度は高かったので、突然その市場が消えたことへの対応はとても重要なテーマです。
そんなわけで、サポートしているホテルの実情などをお話しさせていただいたのですが、話しながら「インバウンド比率が高かったホテルってひとくちに言ってもいろいろあるよな」と気づきました。

これまではぼんやりした理解でしたが、あらためて他業種の方にお話する機会を得て、わりとちゃんと分類できてきました。そして、そのカテゴリーごとに「脱却」の方法も違うよな、と。

①インバウンドが好きなんだ!積極型

いわゆる”ホステル”を名乗るところに多いかもしれませんが、そもそも外国人をもてなしたい!本当の日本の魅力を知ってほしい!と意図的にインバウンドをターゲットにしていた宿です。有名どころだと蔵前のnuiとか。
オーナー自身がバックパッカーで英語も堪能で、外国人と交流をもちたいスタッフが集まってきて...なんてケースです。
こういうところは私はあんまり心配していません。(もちろん当事者の皆さんはとっても大変だとは思いますが...)
というのは、彼らの特徴はターゲットが「インバウンド」といっても、主に”欧米系”という点です。旅慣れていて情報感度の高い彼らをターゲットとしているので、そういう宿はそもそもオシャレ。要するに「イケてる」んです。
私が知るあるホステルでは、そのエリアのインバウンドはほとんどアジア圏からなのに、そのホステルにはやたらとフランス人が来ていて、職業は揃いも揃ってアーティストだったりしました。
彼らは日本人向けのプロモーションをさほどやっていなかったというだけで、日本人から見てもちゃんと魅力的だし、やることをやれば日本人の集客はできます。
しかももともとコミュニケーション能力が高く、ホテル業への意気込みも強いオーナーさんも多いので、低コスト・低リスクで運営するスキルも身につけているところが多い。
ポリシーとは反することもあるかもしれませんが、SNSでの発信や、これまであまりやっていなかった国内向けの販売を少々”ベタ”にやり、持ち前のコミュニケーション能力や人的ネットワークを駆使すれば、いつか市場が回復した暁には、どこよりも最強なホテルになっているのでは?と思います。

②気づけばインバウンドが来てた!なし崩し型

微妙に古い温泉街の微妙に歴史がある旅館なんかにありそうなパターンですが、もともと日本人の団体旅行や旅行会社経由の集客をしていたところに、近年いきなりインバウンドが増えて稼働率があがり、”神風”状態になっていたケースです。特に危険なのが、インバウンドの団体旅行を積極的にとっていた場合。典型的ないわゆる「インバウンド依存」の状態です。
こういったところはちょっと心配。
まず、なぜなら、そういう事態になった背景には、積極的にインバウンドの集客をしたというよりも、日本人の集客が十分にできず価格競争に陥っていたという可能性が多いにあるからです。インバウンドはそこに降臨した「神風」。なので、急にインバウンドがいなくなっても対処するだけの実力がもともと無いのです。さらに、もともとが団体を受け入れられる程度の大規模なところも多いので、スタッフ数も多く、これらの固定費や雇用の維持も頭が痛いところです。
ただ、希望の光があるとすると、こういった宿はもともとも厳しい経営を迫られてきました。宿泊業がけしてラクな商売ではないことを知っています。ここ数年が特別だっただけで、原点に立ち返ればそれほど未知なことではないはずです。
日本の旅行市場は8割近くが日本人による消費。本来ならコロナ以前から日本人への集客は重要だったはずで、しかもその方法にはある程度教科書ができてます。
当事者のがんばり次第ではありますが、今この危機を乗り越えられたら、相対的にサービス業や旅行業の価値は高められるとさえ感じます。慣れない英語や文化の違いに振り回されてきたことを思えば、日本人に向けてサービスするのは気が楽なはずですし、ぜひサービス業の気骨を見せてほしい!

③インバウンドの波にのれ!新規参入型

同じインバウンド依存でも、かなりキツイなぁと思っているのが、ここ数年目立っていたインバウンドを当て込んだ新規参入型の宿です。もともとは不動産やITなどの異業種から、インバウンド増加やなぜか東京オリンピックの機運に乗せられて、伸びしろのある業界と判断してホテルに参入していたケースに多いです。
高額な土地を仕入れ、高騰する建築資材で、それなりの建築士に依頼して建ててしまった新築ホテルを前に、「こんなはずでは」と呆然としているかもしれません。
彼らの最大の問題は、ホテル業を「うま味のある業界」と受け止めていたこと。なので、今のような危機的な状況に対して精神的な覚悟が全くないのです。
まずは「ホテルは儲かる」というマインドセットを変えない限り、回復は望めません。
ホテル業というのは、悲しいかなハイリスク・ローリターンの業界です。超労働集約型なうえに、景気が悪くなれば真っ先に影響を受ける”不要不急”のビジネスです。おもてなし、食、デザイン、従業員のモチベーションなど不確実な要素を日々コントロールし、トレンド、メディア、顧客心理など、数字で測れない要素に日々向き合わなければなりません。不動産利回りだけでは判断できない大変さがあるのです。まずはそれだけ泥臭く割りに合わない商売であることを、よーく勉強し直してもらえたらな、と切に思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?