『わたしたち』(パロマ・バルディビア・作/星野由美・訳)

いつか旅立ってゆく、あなたへおくるメッセージ🎈

この絵本は、母と子の強いきずなをえがいています。かけがえのない親子の関係は、子どもが誕生し巣立っていくまでの時の経過とともに変化していきます。けれど、たとえカタチは変わってしまっても、その愛情は変わらないといことを、詩情あふれる文と絵が綴っていきます。

「あなたは いくつみつける?」絵本にかくされたメッセージ

ページをめくるとき、作者のこだわりや仕掛けが目くばせのように各々のページに描かれています。たとえば、羊の親子は馬の親子に変わりますが、ページをめくる前に馬のおもちゃがヒントになっています。

いっぽう、別の動物に変わるとき、変わらずに引きついでいくものもあります。たとえば、人間のお母さんの髪の模様は、羊の頭の毛の模様で引きつぎます。カタチが変化しても、変わらない何かでつながっていくのです。

一冊の絵本をこんなに長い間ながめたことはないのではと思うほど、絵のモチーフや色に込められたメッセージを見つけていくと、この絵本の魅力は何倍にもふくらむ要素があることが分かります。鹿の角がなぜ木の枝になっているのでしょうか?赤い実の意味は?新しいものを見つけながら、絵を読む楽しみの中で、別のお話しが見えてくるかもしれません。

本の成り立ち ―“わたしたち” という やさしい言葉に込められた深いまなざしー

作者のパロマ・バルディビアさんには、男の子のお子さんがいます。パロマさんは寝かしつけの時間、たくさんのお話しを聞かせ、知っている限りの歌をうたい、絵本もたくさん読んだそうです。そんな中、お子さんをリラックスさせるのに一番効果があったのが、“だれかになりきる遊び”でした。 パロマさんが 「もしもクマだったら」と言うと、お子さんが 「ぼくはコグマ」とつなげていくのです。

ようやく眠りはじめるわが子を起こさないように、パロマさんはじっとしたまま、いつか彼が成長して家を出ていくことを想像しました。こうして、自分のゲームを始めたのです。いつか私たちは変わってしまうだろう。彼は成長し、いつか旅立ってゆく日がくる。旅立ちは痛みを伴うけれど、頭では理解はできる。だって彼は自分の道を見つけたのだから。それは生命のサイクル、そして自然のサイクル・・・。

いつかわが子が家に戻ってきたとき、“わたしたち”は、もうあの頃のままではないかもしれない。けれど築いた愛情と絆はゆるがない、“わたしたち”のままでありつづけるのです。

多様化する親子のあたらしいカタチ

この絵本はチリで刊行されると、ラテンアメリカを中心に広がり、英語、フランス語、イタリア語、トルコ語、ヒンドゥー語など、多くの言語に翻訳されていています。お母さんが子どもと一緒に読む絵本であるだけでなく、成長したお子さんがお母さんへプレゼントする絵本にもなっているそうです。また、アルゼンチンでは、トランスジェンダーをサポートする団体が、親子の理解を深める本として使用しているのだそうです。多様化する社会の中で、新しい親子のカタチをえがく作品となっています。

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