見出し画像

隣の芝生

「みてください。九州の県庁所在市ではうちが突出しています」
「政令指定都市で見るとどこも同じような水準では?」
「いいんです。他都市よりも突出していると槍玉に挙げ、見直し議論の俎上に載せることが大事なのです」
#ジブリで学ぶ自治体財政

地方自治体は横並びが大好きです。
予算要求でも現場から新規事業について現場からは「他都市がやっているからうちもやらなければいけない」と言うのが常とう手段で,逆に財政課から「他都市がやっていないのにうちだけやる必要はない」と切り返すときもあります。
また,行財政改革の議論でも自治体が任意で行う給付事業や補助金,施設使用料の単価設定等についても「他都市に比べて給付や補助が手厚すぎる」あるいは「他都市に比べて施設使用料が安すぎる」といった議論が行われるケースもあります。
これって,議論のあり方としてどうなんでしょうね?

私が何度も繰り返し述べているように,政策や施策事業の取捨選択は限られた財源を活用していかにその自治体が目指す将来像に近づけていくかということに基準が置かれるべきなので,自治体の将来像自体が全国平均並み,同規模の他都市並みであるべきだという価値観で市民の合意が得られているのであればいいのかもしれません。
高度経済成長期の自治体間競争は「追いつけ追い越せ」の価値観で、少なくとも横並びを目指すというものが多かったように思います。
ある自治体が先行して取り組んだものが高い評価を得た場合に「うちもあれが欲しい」と現場が言い出し,あるいは市民や議会から要望がなされ,他都市の先行事例に追随していくという流れは,右肩上がりの経済成長下で税収も増えている状況下であったからこそ現状の政策を維持しながら成長の果実を上乗せしていくことができました。

当時は,新たな政策,施策事業を選択し着手するうえでは,現在の政策,施策事業との優先順位付けを行わず新たに取り組むことができる多様な選択肢の中から他人の持ち物を見てうらやましいと思ったもの,欲しいものの中から優先順位をつけて手に入れていることができたわけですが,今は状況が違います。
厳しい財政状況下では何かを手に入れるときには必ず何かを手放さなければいけないのですから,新たに手に入れるものの価値は今持っているものの中で手放すことができるものとの比較になります。
新規事業としての魅力を語るうえでは他都市で実施しているかどうかは参考になりますが,その事業を実施するには現在自分たちが行っている事業との優劣を比較して議論せざるを得ないのです。

まして,今やっている事業を見直す行財政改革,今持っているものを手放す議論であればなおさらです。
自分が持ち家に住んでいて,周りがみんな借家だからあなたも家を手放して借家に住まないといけないと言われて納得のいく人はいないでしょう。
あくまでも家を手放すかどうかは自分がその持ち家のローンを払い適切に維持管理ができるかどうかが判断基準になるのであって,もし収入が減って家を手放す必要性が生じたときでも,家を手放す以外の支出削減策として月々の遊興費や子供の教育費を減らすことができるかどうか,あるいは今以上の収入確保のための副業や転職、保険の解約やお金になる資産の処分など,自分でできることを自分で考えるでしょう。
よく行財政改革で第三者機関の委員から言われる「あなたの自治体は市民一人当たりの〇〇費が高すぎる」という指摘は,それ自体には何の意味もないのです。

耳を傾けるべきはその指摘の裏側にある「なぜ他都市よりも高いのか」という理由であって、それを踏まえ「それは問題なのか」を議論しなければいけません。
福祉施策が他都市よりも手厚いと指摘されたとしても、それが都市の魅力として市民が認めているものなら直ちに他都市と同水準にすべき理由はありません。
しかし、他の同規模自治体よりも税収が少なく,毎年度入ってくる経常的な収入が安定していないにも関わらず,社会保障の施策として国が定める基準に加え任意の金額の上乗せや対象者の拡大を行っている場合には,自治体の持つ基礎的な税収構造に比して自治体独自で拡大した制度そのものがこれからも持続可能なのかを検証し、必要に応じて見直しを検討すべきかもしれません。
あるいは,人口減少に対応し行政運営の効率化を図るために複数の市町村が合併したのであれば,その効率化の指標として人員や保有する公共施設の数量、規模が同規模の自治体に比べてどうか,という検証を行う上では他都市の比較は意味があるでしょう。

しかし,他都市と同水準でないことが見直しの根拠であったり,同水準まで引き下げることが見直しのゴールであるはずはなく,あくまでも自治体が主体となってその施策を維持できるのか,維持したいのか,維持するためにほかの施策を犠牲にできるのかという観点で議論し結論に至らなければいけません。
このことは,私自身が2012年に福岡市の行財政改革プランを策定する作業過程で他都市との比較を参考に見直すべき事業や分野をあぶり出そうと考えた際に,当時,福岡市の行財政改革推進について議論していただいていた第三者機関の座長を務めておられた元三重県知事の北川正恭先生から一喝のうえ全否定されたことであり,それ以来私が行革の禁じ手として強く念頭に置いていることです。

福岡市は人口一人当たりの人件費が他都市平均よりも低いのですが、それは家庭ごみ収集の民間委託など他都市では行政が直接担っている事業を民間に委ねているからであり、その分物件費が他都市より多いという状況です。
また、とある高名な方から、福岡市は市で臨時的に雇用するアルバイトの賃金総額が他都市より突出していると批判されたことがありましたが、よくよく調べると埋蔵文化財の発掘調査の補助員に支払う日当が他都市よりも多く、それは京都よりも古い歴史を持ちどこを掘っても埋蔵文化財が出てくる福岡ならではの土地柄であり、しかもその調査は埋蔵文化財包蔵地で開発を行う民間施主からご負担いただいて市が行っているものであって福岡市の財政運営上は問題がないことでした。

他都市と比較することにまったく意味がないとは言いませんが、あくまでも自分のまちのお金の使い道を評価する上で参考にできるモノサシの一つにすぎません。
同規模であっても、近隣であっても、地域の実情もそこに住む人々の価値観もそしてその中でこれまで培われてきた歴史文化や政治判断の積み重ねも全く異なるものを十把ひとからげでくくり、自治体運営の評価軸とするのはいささか乱暴で信ぴょう性に乏しいものであることを改めて指摘しておきたいと思います。

★「自治体の“台所”事情 ~財政が厳しい”ってどういうこと?」をより多くの人に届け隊
https://www.facebook.com/groups/299484670905327/
グループへの参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50/
フォロー自由。友達申請はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
2018年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?