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これからの自治体職員に求められるもの

役所の言うことももっともなんだけど、もう決まったこととして説明に来るのが気に入らないのよね
どうして決めるまでの間に私たちが意見を言う場がないのかしら
#ジブリで学ぶ自治体財政

先日、あるパネルディスカッションで自治体職員のキャリアについて語り合う機会をいただきました。
このオンラインイベントの内容については主催者のほうで別途発信されることでしょうからここでは述べませんが、私が印象に残ったことを備忘的に書き留めておきたいと思います。

リアルタイムのオンライン配信で視聴者から質問を受けた中に「これからの自治体職員にとって必要な能力、スキルとは?」というものがありました。
質問者はその例示として論理的思考のようなものを挙げておられたのですが、自治体職員を辞めて市議会議員になられたAさんからは「市民に寄り添う力」という言葉が、同じく自治体職員を辞めて首長になられたSさんからは「コーディネート力」、そして私は「対話力」という言葉を挙げました。
いずれもこの質問をされた方の挙げた「論理的思考」とは真逆の概念。
確かに論理的に物事を考え、今はやりのEBPMで政策を立案し、実践し、検証していくということも大事ですし、それを掲げる方もおられることでしょう。
しかし私はそれよりも、このnoteの記事でも何度かお話したように「対話力」のほうが大事だと直感的に思いましたし、他の2人のパネリストもほぼ同じことを考えていたことがとてもうれしく、印象に残ったのです。

3人に共通していたのは、多様な意見を持つ市民がいかに納得性を以て合意を形成するかという視点。
そのための場を創り、市民をそこに招き入れ、多様な意見を受け入れながら合意に導くことが自治体運営にとって今後非常に重要になると考えたのです。
この合意形成がうまくできるかどうか、それができるスキルを持った職員をどれだけ育て、確保できるかがこれからの自治体運営のカギになる。
そうであるならば、これからの公務員に求められる最も重要な力は、市民の声に耳を傾け、その立場に寄り添いつつ、多様な立場の意見に向き合い、それらを合意へと統合していく調整力。
それらを総称して私は「対話力」という言葉を用いました。

経済成長を求めた昭和の時代は、誰もが求める生活の豊かさを量で感じることができる施策事業を横並びでやっておけばいい時代。
わかりやすい市民ニーズとして声の上がる道路や公園などの都市基盤を整備し、その延長や面積で他都市と競い過去と比較して行政の手柄を誇る時代でした。
時代は移り、平成の世になってある程度の経済的な豊かさを手に入れた我々の価値観は多様化し、次に欲しがるものが人によって異なる、あれもこれも欲しい時代になり、自治体は次にどのニーズを満たすかを多様なニーズの中から選択し、合意形成することになりました。

それでもまだ、実現に向けた優先順位の問題であるうちはよかったのです。
順番が一位にならないだけで、待てばいつかは自分のニーズが実現される順番が来ると信じていられるうちは。
しかし今、少子高齢化、公共施設の老朽化など、義務的に必要な経費が増え、自治体の裁量で施策を拡充してくことが難しくなる一方で、人口が減少し、税収が減り、自治体の規模そのものが縮小していく時代になりました。
次に何を実現するかではなく、次に諦めるのは何か、最後まで残すのはどのカードか、ということについて合意形成していかなければならない時代。
この優先順位付け、合意形成は私たちが体験したことがない未知の世界です。
自治体運営の現場でこの出口の見えないトンネルに入り込み、もがき苦しむ経験をしてきたからこそ、私たち3人のパネリストは、その闇を照らす一筋の光明を「対話」に求めたのだと思います。

「対話」によって意見の違う互いの存在を許し合い、互いに心を開き合い、多様な立場から見えている世界の情報を交換し、その危機感や目指すべき未来を共有し、そこから導かれる苦渋の選択の場に居合わせる。
誰もが目指すわかりやすいゴールがあった成長の時代と違い、縮小する未来において何を遺すかという局面においては、理論的な正しさを追い求めるのではなく、合意形成の過程に居合わせその当事者となることがそれぞれの納得感につながっていくのだと私は思います。

以前「対話の鍵を握るのは」という記事の中で職員の重要性を書きました。

地方自治体は,異なる立場,意見を持つ住民の利害を調整し,実施すべき一つの案をとりまとめ,それを政策として実施することが主たる業務ですが,その意思決定プロセスそのものを設計し,実行する権限を持っているのは職員です。(中略)この意思決定プロセスやそれぞれの場づくりについては,決めるべき事案の重要性や緊急性,またその事案に対して市民が持つ意見の幅の大小によって個別具体に設計することが必要であり,その際に「十分に対話し,議論することができた」と市民が感じることができる場とするためには,対話の重要性はもちろん,どうすれば対話がうまくいくかというノウハウも職員自身が知っておく必要があると思うわけです。(以上、引用)

こんな考えで人材を確保し、育成し、自治体運営に生かしていく自治体が増えていけば、限られた財源や人的資源という制約の中でも住民福祉の最大化を図っていくことは可能ではないか。
むしろ、お金で住民の満足を買うことができる時代でない以上、対話というプロセスにより住民の納得感を満たしていくことしかないのでないか。
財政の話を語りだすと、いつもこの答えにたどり着いてしまいます。
「自治体財政よもやま話」でありながら今日は「対話っていいな」になってしまいましたが、実はこのふたつの話題、つながっているんですよね。

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