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しあわせってなんだっけ

時間を割いて議論しても
対立を乗り越えられないのはなぜ
互いにわかりあえないのは
双方に何が足りないのかしら
#ジブリで学ぶ自治体財政

疲れている財政課職員へ
「幸せな合意形成」への道筋を一緒に考えませんか?
という書き出しで,昨年6月に発足した「新しい自治体財政を考える研究会」の活動についてご紹介したのを皆さん覚えておいででしょうか。
自治体の厳しい台所事情のなかで繰り返される「要るものは要る」と「ない袖は振れない」の交わらない平行線の議論。
互いに信頼できずに騙し合いマウントを取り合う不毛な争いは時間と労力を浪費します。
財政課職員だけでなく,現場の予算担当,事業担当の皆さんにも過大な負荷をかけ負の感情を抱かせる対立の悲劇をなくしたい。
その過程に携わる者が過度に疲弊せず,感情のしこりを残さず,来年もまたその渦中に身を置くことを厭わない仕組みとして運用可能なルーティンを考えたくて「新しい予算編成フロー」を検討しているところです。
「幸せな合意形成」
https://note.com/yumifumi69/n/n84f57b557010

この「幸せな合意形成」の検討の中で私たちが直面しているのが「幸せとは何か」という哲学的,観念的な問いかけです。
今の予算編成に携わる人たちが「幸せでない」のは私もよくわかっています。
では,この場合の「幸せでない」状態とは具体的にどういう要素で構成されているのか,その要素がどう変化すれば「幸せ」になるのか,それは予算編成の仕組みを工夫することで変化させることが可能なのか,その変化は定量的に測定しうるのか,というあたりを突き詰めていく必要があるわけです。
さて,私たちは予算編成の中でどんな不幸を味わっているのでしょうか。

予算編成において現場と財政課の職員がそれぞれ味わっている最大の不幸として挙げられるのは「理解してもらえない」いう声です。
現場も財政課も互いに「要るものは要る」「ない袖は振れない」とそれぞれの主張を繰り返しますが,この平行線が交わらない。
もちろん,自分の主張が100%通ればこんな不満はないわけですが,そういうわけにいかないのが限られた資源を効率的,効果的に配分する予算編成の本質。
思い通りに行くはずがないのです。
結論が思い通りにならないことを「理解してもらえない」と考える,この不幸せを解決するための場づくりの工夫としては,自らの主張を語る場がどれだけたくさんあるかということはもちろんですが,そこで自らの主張を真摯に聴いてもらえることになっているか(先入観の排除,ルールの公平性,過程の透明性,主張の対等性の確保など),そして最終判断者への委任(最終判断者の第三者性または上位性,決断に従うという前提,判断者の能力への信頼など)が必要になります。
これらはいずれも現行の予算編成過程でも措置されている機会やルールですが,当事者がその運用に満足していないのなら改善の余地があることになります。

私はむしろ「理解してもらえない」と相手方に不満をぶつけている自分自身が相手のことを「理解できない」ことに不幸の本質があると考えています。
現場からすれば,予算を査定された理由,優先順位が低いと判断された根拠,そもそもなぜお金がないのか,どうして必要な事業に予算がつかないのかと不満に感じることばかりですが,財政課からすればそれはすべて説明可能であり,それを査定時に初めて聞いてわからなければ,普段からその背景を理解できる環境を整えておけばよいだけ。
財政課の現場理解についても,予算編成に入る前に現場が施策事業の遂行にどれだけ苦心しているかちゃんと知る努力をし,必要に応じてヒアリングを行い,あるいは現場にも出向いて情報を共有しておけばいいだけ。
それができないのなら現場に判断の責任と権限を委ねれば良いのです。
もし双方の理解力向上について予算編成過程での仕掛けを講じるのであれば,財政課は現下の財政状況とその見通し,市債や基金の残高など財政運営上の留意点,政策推進における優先順位の考え方,枠予算やシーリング(予算要求上限)の設定をするのであればなぜそのような措置を講じるのかなどについて,平易な言葉で日頃から情報を発信し,場合によっては出前講座等で理解と共感を促進しておくことが必要ですし,現場は施策事業の進捗状況や成果,課題について,予算編成の時期にだけ財政課の門をくぐるのではなく,状況を財政課と共有する
ための場や機会を定例的,恒常的に設けることが必要になるでしょう。
結局のところは普段のコミュニケーションの問題ですが,情報発信や共有の時期や手順については予算編成過程に組み込むことも可能ですし,その前提として「理解しよう」という気持ちを誘導する仕掛けが必要になるかもしれません。

「理解してもらえない」「理解できない」を克服し,財政課と現場が理解し合えたとした場合に次に立ちはだかるのが「安全であること」です。
結論を外部に表明した場合に自分は安全でいられるだろうか,ということは人間の心理として結構重要です。
ある事業の廃止,縮小を決めた際に,そのことで市民や議会から突き上げられたりしないか,もしそういう状態になったときに誰が最前線に立ち,誰が後ろ盾になってくれるのか,対外的に説明するための理屈の組み立ては大丈夫か,議論が紛糾しないための意見表明の手順,方法,タイミングなどについてきちんと組織的な準備が行われることは,予算編成における意思決定,特に施策事業の見直しでは必須です。
また,見直しによる縮小,廃止に至った事業について,その責任を全面的に当該組織に負わせれば,その責任を回避するために見直しを固辞する場合もあり得ますので,そうならないように事業の見直しと個人の責任を分離する工夫も,見直しを進めるための要件になります。
これらは予算編成過程の工夫というよりは,庁内の意思決定におけるグランドルールともいえるもので,庁内で議論するうえで忌憚なく意見を述べる心理的安全性を確保するために必要な環境整備です。

最後に,これらの措置を講じることとしたうえでその全部が「効率的でなければならない」ことに留意する必要があります。
そもそも先に掲げた「幸せな合意形成」のそれぞれについては,今も自治体内部では昼夜を問わず議論しています。
そのために必要な資料を作成し,様々な階層の会議や協議を行い,幾重にも段階を踏んで結論を出しているわけですが,その過程で現場と財政課の日頃の意思疎通の不足,各階層での差し戻しによる手戻りなどにより,膨大な事務作業が発生していることもまた職員の疲弊を招く原因となっています。
特に大きな組織では意思疎通の目詰まりが起きやすいため,情報伝達を仲介する調整担当部署,総務系部署の果たす役割は大きく,また縦のラインに位置し,横との調整も担う係長,課長,部長といった管理職の立ち居振る舞いも重要です。
関係者の相互理解のもとで導いた結論を安全に市民に届けるために最善を尽くすのはわかりますが,そのために庁内で費やす時間と労力を減らすために予算編成フローを見直してみようと考えてみた結果,詰まるところ,庁内の情報共有,意思疎通のための基盤(手続きだけでなくその前提条件となる組織風土も含め)を簡素で効率的,かつ実効あるものにするということのようです。

一応,「幸せ」を要素分解してみましたが,結局は普段の「対話」なのかな,と。
ところで,組織内での「対話」が導く「幸せな合意形成」は,市民の「幸せ」に結び付くのかという疑問がわいてきますが,それはまたの機会に。

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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