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ゆく川の流れは絶えずして

部長も課長も係長も異動
私以外全員ってどういうこと
人事は現場のどこを見て
これで大丈夫だって思うのかしら
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
令和6年度がスタートして1週間が経ちました。
4月1日付の人事異動や組織変更、所掌事務の変更などで新しい職場で、新しいメンバーとともに、新しい業務に従事し始めた方も多数おられることでしょう。
また、自分自身には変化がなくても、上司や部下、同僚が入れ替わり、同じ職場で同じ業務を担当していてもなぜか新しい風を肌で感じる、春はそんな不思議な季節です。
私自身、異動もなく同じ職場で3年目の春を迎えたわけですが、昨年が同じフロアでほぼ異動がなくベタ凪状態だったこともあって今年は春の嵐が吹き荒れ、上も下も横も、私以外の主要メンバーが根こそぎ異動してしまったため、この1週間は4月加入の新メンバーとのチームビルディングからのスタートとなりました。
 
前回、人事異動で大切な人とお別れすることのさみしさを書きました。

別れはさみしいですが、それがまた新たな出会いの始まりでもあります。
また、人事異動が「お別れ」を意味するかどうかは自分次第の面が大きいわけで、別れたくない人とは別れなければいい。
相性の合わない人とのリセット効果を享受(笑)しつつ、新たな出会いに胸ときめかせ、多様なつながり、絆を得て自分自身の糧としていきましょう、とも書きましたが、それから2週間が経過し、春の人事異動で周りの風景が変わりました。
異動しなかった私の心の中にも、今、柔らかな春風が吹いています。
 
公務員の人事異動はほとんど転職に近いほどの振れ幅で、入庁から20年経っても30年経っても、いまだに「はじめての職場」に異動させられるケースが多く、我々公務員にとっては過重な精神的負担です。
せっかく職場に慣れ、業務を覚え、関係者との人間関係が構築でき、いざ自分らしくその職場で輝こうとしたその瞬間、無情にも異動列車の発車のベルが鳴り、私たちは見知らぬ新しい職場に連れていかれます。
これを組織の側から見ると、3~4年に一度のサイクルで異動しているということは、職場の3割程度は常に異動したての新人ということであり、4月着任からの数か月は組織としても仕事のパフォーマンスが当然下がります。
新しい職場で慣れない事務処理が滞り、新しい事案への判断が遅れ、窓口混雑や長い電話待機を市民に強いるこの人事異動というものは、社会的コストを増大させるだけで、市民の便益向上につながっていないのではないか、という声も時折聞こえます。
周りがすべて異動してしまい、自分一人でこの職場を支えなければいけないという重圧に苦しんでいる方もおられることでしょう。
 
「これで現場が回ると思っているなんて、人事は何を考えているんだ。」
組織の要となる人材を引き抜かれたときに、残された職員たちがぼやきます。
私も何度この言葉を発したり聞いたりしたかわかりませんが、もう私はこの言葉を吐くことはないでしょう。
それは私が、組織の能力とその構成員一人ひとりの能力との関係性について以下のように考えるに至ったからなのです。
5人の職員がいて、1年に一人異動し新人が入ってくる職場のことを考えてみましょう。
ここで、各職員の能力をわかりやすいように経験年数でカウントしてみます。
今年4月の異動で5年在籍した職員が抜け、新人が入ってきた場合、各職員の経験年数は4年、3年、2年、1年、0年となり、その合計は10年です。
これが来年3月末時点では5年、4年、3年、2年、1年の15年となり、ここで経験年数5年の職員が抜け、新人が入ってくると職場の能力(職員の経験年数の総和)は5年落ちるため大幅な戦力ダウンに見えるのですが、実はそうではなく、今年4月の時点に戻るだけ。
経験年数の豊富な職員が異動で抜ける穴を補うために、他の職員による経験の蓄積が春からすでに始まっています。
逆に言えば、ベテランが抜けることは所与の条件であり、それを前提とした業務引継ぎ、人材の登用・育成こそが組織の持続的経営の提要なのです。
 
組織にとって余人を以て代えがたいと言われる人を私はたくさん見てきました。
私自身がそのように言われたこともあり、自分自身そうだと思っていたこともあります。
しかし、公務員の組織というのは不思議なもので、正直、余人を以て代えがたいというのは、プロジェクトの一番大事な時期に非常に短期的な話としてならあり得ますが、その状態が永続することはありません。
ベテランが抜けて新人職員が担当するようになり、部長、課長や係長といったマネージャーが抜けて新たな人材に交代したとしても組織としては一定のパフォーマンスを保ち続けることができるのは、私たちが仕事を個人の能力だけに依拠せず、組織全体として決められた役割分担に基づきそれぞれがそれぞれの立場で自分の領分を適切に捌いているから。
どんな個性的な職員でも、組織の中で一つの部品として与えられた動きをしているから。
それは没個性的なことであり、以前書いた「情熱と異能の人」ではそのことを嘆きもしました。

しかし、経験年数の長いベテランは組織の現状を肯定し硬直化させることがしばしばあります。
特にそれが管理職、上層部であれば、現状を認識する視点や感性が硬直化することで組織運営も変化に対応できず道を誤りがち。
そんな状況でも新しく入って来た若手たちは経験年数豊かな先輩方に異を唱えることなどできるはずはありません。
そういう意味では、3~4年で全員が入れ替わる人事異動を繰り返す新陳代謝こそが、公務員組織のレジリエンスの本質なのでしょう。
人が入れ替わるなかで余人を以て代えがたいという属人性を排し、一方で新たな人材がその成果を継承しつつ、環境変化に耐えながらしなやかに変化していくことができる組織。
それはまさに「ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」と鴨長明が記した川の流れでもあり、古い部品を全部交換しつつ同一性を保ち続ける「テセウスの船」でもあります。
人事異動でベテランが欠けることでの戦力ダウンを嘆くのではなく、新しい戦力の投入による変化を喜びましょう。
ベテランの代わりに来てくれた新たな人材が新しい風を吹かせ、これまでになかった新たな視点や感性で組織の次なる成長をもたらし、その担い手になってくれることを期待しましょう。
自分自身もまた、去年の春の自分とは違う、一皮むけた新たな自分です。
ベテランの抜けた穴を埋め、新人が吹かせてくれる新たな風を感じ、新しい自分を発見する、そんな季節にしていきましょう。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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