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良質な合意

三人寄れば文殊の知恵
互いの違いをわかりあい
その持ち味を分かち合う
時にはけんかもするけれど
みんなでかかりゃ百人力
#ジブリで学ぶ自治体財政

予算編成過程での報われない議論と作業に疲弊した全国の自治体職員に投げかけた「幸せな合意形成」への道筋。

それは予算編成の手法を改革し,職員同士で行うコップの中の嵐を鎮めるだけでよいのでしょうか。

予算編成における「幸せな合意形成」は,その業務に携わる職員の幸福感のみよってその内容が左右されるものではありません。
もし仮に職員の幸福感のみによるのであれば,職員同士互いに当たり障りなく,可もなく不可もない骨抜きの合意で互いの立場を保全するという方策をとることも可能ですが,予算編成の当事者としては首長と議会という存在感のあるステークホルダーがいます。
それぞれ選挙によって市民に選ばれた市民意見の代弁者。
そもそも予算編成は首長の権限であり,首長はその案について議会の承認を経なければ執行することはできません。
私たち自治体職員は,単に職員同士での対立を解消して合意に至るだけでなく,その合意が首長と議会にとっての「幸せな合意形成」を目指す必要があるのです。

首長や議会にとっての「幸せな合意形成」とは,それぞれが選挙によって付託された市民からの要望,期待,批判などの様々な意見を予算に反映させ,それが自らの政治信条や公約に整合していること。
それに加え,編成された予算案に自らが求める市民意見の反映や自らの信条等との整合が図られていないときにその根拠や理由について合理的な説明を受け,納得していることが求められます。
しかしここで自治体職員諸氏から発せられるのは「首長や議会の「幸せ」は本当に市民の「幸せ」か」という懸念。
予算編成の実務に携わっていれば時折遭遇するのは職員として感じている市民感覚とはかけ離れた首長のトップダウンや有力議員,会派からの強い要望。
理屈では抗うことのできないこれらの強い力に辟易とし,これが本当に市民の求めるものなのかと怨嗟の声が上がるのは全国の自治体組織で実際に起こっていることです。

私たち自治体職員は「幸せな合意形成」において,自分たちの心の平穏のことだけを考えているわけでではなく,一番に求めているのは自分たちの仕事が市民の幸せにつながるという実感。
その手応えこそが私たち自治体職員の幸せです。
しかし考えてみれば,数千,数万,数十万人の多様な人々が暮らす自治体において「市民の幸せ」などとひとくくりにできるものではなく,それはたとえ選挙で選ばれたからと言って首長,議会の意見ですべてが反映できるわけもないし,まして私たち職員の個人的感覚で判断できるものでもありません。
さらに言えば,そもそも市民は自治体運営に対してさほど関心があるわけではなく,現状を大きく変化させるような事態が生じるまではその幸福や欠乏について意見を述べたり,その持続や改善を求めて行動したりする市民は多くありません。
市民のコミットメントが薄い中,現在の間接民主主義の仕組みで市民の幸せを実現できる確からしい結論を導き,私たち自治体職員が市民の幸せを自らの幸せと感じることは可能なのでしょうか。

私たち自治体職員は,市民一人ひとりにとって幸せな合意を形成するために,市民幸福の最大化に向けた利害調整をそれぞれの立場を代位して担っています。
とすれば,予算編成における「幸せな合意形成」が市民幸福の最大化を意味するために必要なのは,私たち自治体職員がそれぞれ自らの頭で市民の幸せについて考え,その幸せを実現することを自分の幸せと感じ,そのために庁内で忌憚なく対話し,真摯に議論できることではないかと私は思うのです。
誰かが言うからではなく,強い力に流されるのでもなく,自分自身で考える。
それが正しいかどうかはわかりません。
正しいかどうかわからないからこそ,それを確かめるために言葉にする。
自分が言葉を発すると同時に,他人の言葉に耳を傾ける。
どちらが正しいかではなく,そういう立場,意見があるんだねと互いにその存在を認め合う対話があちこちで行われ,その繰り返しの中で多くの人が共有できたビジョンや方向性に沿って,互いの相違点を整理する議論に入っていく。
立場の違い,意見の違いを認め合いつつも,一つに決めなければいけないことに向き合う真摯な議論は,その前段に置かれた忌憚のない対話があればこそ。
様々な立場の市民が言っていること,口に出さないけど思っていること,普段何気なく感じていることを職員一人ひとりが具体的に想像し,その多様な意見を代弁して自治体内部でそれぞれの置かれた立場や階層ごとに幾重にも対話と議論を繰り返すことによって,市民の意見を総合した良質な合意が形成できるのではないでしょうか。

市民の合意形成と言っても本当の利害関係人同士であれば忌憚のない対話ができる関係になることが難しいかもしれませんし,そもそも数千人,数万人の市民が一堂に会し,対話や議論に勤しむことなどそもそも不可能です。
選挙による民意の反映が不十分だと思うなら,私たち自治体職員がその不備を補い,市民同士の対話,議論を代位しましょう。
そうやって対話し,議論して導いた結論を,その過程とともに市民と共有し,市民がその経過をたどり追体験できるようにすることで,私たちの対話や議論が本当に市民を代位していたのかが検証できますし,それが市民の求めるものに近いなら市民からは喜びの声が,真実にほど遠いなら「そうじゃないんだよ」と声を上げてもらえるはずです。
大事なのは,職員同士が市民のことを思い,そのことをきちんと対話し,議論し,その過程や結果に幸せを感じられるようにすること。
そして,予算編成をはじめ,私たちが自治体組織内で行う意思決定や合意形成が忌憚のない対話と真摯な議論から導かれる良質なものであることを多くの市民に知ってもらうことなのです。

皆さんは,職員同士できちんと「対話」「議論」していますか?
その際に職員それぞれが想像できる限り,市民のことを思っていますか?
その対話,議論の過程や結果に対して,職員として幸せを感じていますか?
そしてそのことを,首長,議会,市民に知ってもらえるように伝えていますか?

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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