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早く言ってよ

「私のお年玉,小さいころからずっと貯めてくれてたよね。今度友達と旅行に行くので使いたいんだけど」
「毎月の家計のやりくりで使っちゃったよ」
「えーっ,あのお金は私のじゃないの?使うなら使うで早く言ってよ!」
#ジブリで学ぶ自治体財政

我が家の実話です(笑)
皆さんのところにも同じような話の一つや二つ,転がっているかもしれませんが,これはどうでしょうか。
京都市は「財政非常事態」
来年度財源500億円不足で市長、聖域なき行革を約束
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/383377?fbclid=IwAR3xytV_7eIU89W-m9xmzi9yO3nGiZqJ_fHms-1oFiCkECtjhvqy_rQ7Pk4

なかなかの衝撃です。
このコロナ禍の影響で税収減というだけでなく,もともと社会福祉関連経費の増加などで収支の不均衡が毎年発生し,その穴埋めに将来の借金返済原資として貯めている公債償還基金を繰り入れて一時的にしのいでいたことが顕在化したということのようです。
資金不足を補うために,別の用途で支払うためにとっておいたお金を一時的に借用するということは我が家の家計でもあることです。
しかし一時的に借用したお金はいずれその本来目的の使途に充てる日が来ますので,その日までには元通りに復元しておかなければならないのですから,これはあくまでも臨時的なもの,その時限りの一時しのぎに限られます。
もし仮に自治体の財政運営において毎年必ず必要なお金,経常的な支出の財源不足が発生し,その穴埋めに別の資金を充てるということであれば,一時的な資金繰りは緊急避難として行うにとどめ,毎年の経常的な支出を経常的な収入,つまり毎年ある程度確実に見込める収入で賄えるよう支出を抑えるようにしなければいけない,ということになります。
この対処が遅れると毎年の不足分を一時的な資金繰りでしのぐことになりますが,最初は小さかった赤字幅でもそれが累積されることで復元すべき金額が大きくなり,本来の目的に充てるべき時期が到来したときには手の施しようがないという事態に陥ってしまうのです。

こうならないためには,今回の京都市の例でいえば社会福祉関連経費など毎年必要な経費の増加で収支の不均衡が発生することが見込まれた際に,公債償還基金を活用することを選択する段階で,これは一時的な資金繰りとして行うに過ぎないことを経営層が理解し,並行して経常的な支出の抑制に向けた手立てを講じておく必要があったわけですが,そこで有効な手を打つことができなかったのはなぜかを考えてみましょう。
まさか財政課職員がそのことに気づかなかったとは思えませんので,きっと公債償還基金に手を付けると将来こういうリスクがありますと上司に進言したと思いますが,その課題意識がどこまで共有されたのか,ひょっとしたらどこかで止まってしまったのではないかと思うのです。
市長まで報告することを怠ったのか,報告したけれど放置されたのか,報告し,その対処を市長から指示されたものの,経常的な支出の見直しは行政サービスの切り捨てだとの批判を伴うのでまずは財政課の行う予算査定などで薄く広く切り詰めていくことにしたのか,あるいは市民や議会に報告し,行財政改革の必要性を訴えたものの,十分な協力が得られずに抜本的な対処が遅れたということなのか,私には推測することしかできません。

そもそも伝えるべき課題意識についても,伝えるのを怠ったということではなく,伝えたつもりでも伝え方が悪かったのかもしれません。
情報の伝達は「伝える」「知っておいてもらう」ことを目的にしているのではなく,その情報が正しく「伝わる」こと,すなわち伝えた情報を基に「考えてもらう」「行動してもらう」ことを目的に,その手段として行われているはずなのですが,時に我々は「伝える」ことで終わってしまい,相手に正しく伝わったかどうか,相手が提供した情報に基づいて何かを考え,行動したかどうかをきちんとフォローできていないことがあります。
後でそのことに気づいて「こないだのあれ,こういう意味だったんだけどわかってる?」と言っても時すでに遅し。
言われた側からすれば「そういう意味だったの?だったら早く言ってよ(涙)」ということになりかねないのです。

私も2012年に財政課長に着任してすぐ行財政改革プランの策定に着手したとき,今後4年間で851億円の財源不足が生じるという試算の結果をオープンにし,収入の大幅な伸びが見込めない中で社会保障関係費をはじめとする義務的経費が増加すること,総合計画に掲げる政策実現のために今後も必要な投資を続けていく必要があること,そのためには単な経費節減,事業見直しではなくビルド&スクラップ型の行財政改革を進めていく必要があることをご説明し,ご理解をいただいてその後4年間の財政課長在籍時にこの財源不足を解消し,必要な
政策的投資も行う財政運営を行うことができました。
これはひとえに財源不足の原因と対応方策を含めた今後の見通しを伝える場を与えていただいたことと,それを正しく自分事と受け止めていただいた市長,職員,市民,議会の理解と協力があったからだと思っています。
今回報じられている京都市の課題がいつごろからのもので,そのことが庁内外でどのように共有されていたのか私は門外漢なのでわかりませんが,報道を見る限りではもう少し早く職員,市民,議会が同じ課題認識を持って行動を起こせるように「伝える」ことができたのではないかと感じ,そのために必要な市長と職員,職員同士,市役所と市民,議会とのコミュニケーションの場や手段が不足していたのだろうと思い至りました。

この資金繰りの事例だけでなく,将来起こりうる財政的な危機に対して現在であれば何らかの手が打てるのに首長,庁内,市民,議会等と十分に情報が共有できず,危機意識が共有できていないことで後手に回ってしまい,財政担当者が忸怩たる思いで爪を噛んでいるという自治体が少なからずあるように思います。
危機は目の前にあるのに,首長が,職員が耳を貸さない,議会が,市民が相手にしてくれないという四面楚歌で財政課から危機的な状況を言い出せないのなら,まず最も情報共有,意思疎通しやすい職員同士から始めてはいかがでしょう。
財政課以外の職場の皆さん,今回の事案を例に「うちは大丈夫なのか」と職員同士で課題認識を共有し,財政課にも率直に疑問を投げかけてみてください。
その際は,危機に関する責任を押し付けあうのではなく「自分事」としてとらえ,これを乗り越える術を財政課と一緒になって考えていただけたらと思います。
たまたま人事異動で座っている場所が違うだけで同じ職員同士。
どちらも市民の幸せを実現するために働く,全体の奉仕者ですからね。

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