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自治体DXは市民満足の夢を見るか

ロボットが公園の管理をしてるんだね
ねえ これも自治体DXなの?
#ジブリで学ぶ自治体財政

ここ数年盛り上がり始めたDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、いよいよ地方自治体にも「自治体DX」の波が押し寄せてきました。
国がデジタル庁を設置したこともあって、全国の自治体でDX担当部署が新設され、この春の人事異動の目玉にもなっています。
しかし「自治体DX」ってそもそも何をすることなのでしょうか。

一般的には「DX」=「デジタル技術による業務やビジネスの効率化、生産性向上」と解釈されていますが、地方自治体はこれまでも、住民基本台帳の電子化やその情報基盤に連携した税や福祉等の行政サービス提供・管理のためのシステムを開発・運用することで手作業、紙媒体でやっていたデータ連携を効率化、省力化する、といった取り組みを進めてきました。
昨今話題の「自治体DX」とは、この流れを推し進めさらに作業が省力化、効率化され、事務コストを低減させることなのでしょうか。
もしそうだとしたら、財政状況の厳しい折、デジタル化のための新たな投資に見合う費用対効果が得られるのでしょうか。
少なくとも、民間企業で今取り組まれているDXは単なる業務効率化ではありません。
効率化、省力化はDXの成果の一つですが、DXの真の目的は「生産性の向上」、つまりコストを抑えるだけではなく、生み出される商品、サービスの付加価値の向上をも実現しなければならないのです。

オンライン申請やデータ連携などにより事務が効率化され、市民サービスの向上が図られるときは「即時性」「簡便性」といった「利便性」が市民にとってわかりやすい付加価値の向上として挙げられます。
この場合、その費用対効果を議論する中で、事務の効率化、省力化と同様に職員の手間がかからなくなった分を人件費で換算するという手法を考えがちですが、それは間違いです。
「自治体DX」の目的が市民に提供する付加価値の向上である以上、その効果測定はオンライン申請やデータ連携によって利便を享受する市民の満足度で測定すべきなのです。
この場合、市民が窓口に行かなくて済むことによって省くことができる手続き時間が実際に生み出される付加価値になります。
市民はこの恩恵を利用して別のこと、例えば仕事をすることができるので、生み出された時間に賃金単価を乗じれば金銭換算も可能です。

しかし「自治体DX」によって生み出される付加価値、すなわち市民満足の向上は、費用対効果を金銭換算できる「利便性」だけに目を奪われてはいけません。
自治体では市民の福祉向上のために様々な施策事業を実施していますが、市民の行政に対する満足度というのは、決して予算投入の規模に比例するものではなく、どれだけ市民福祉のためにお金をつぎ込んでいたとしても、その事実を知らなければ市民は当たり前のことと受け止めて特に何も感じませんし、ニーズの高い施策が実現できない際に、その背景や理由について丁寧に説明しているのとしていないのでは市民の納得感は雲泥の差です。
また、施策や事業に関する満足とは別に、職員の市民への対応や不祥事の有無、自治体と市民との距離感や風通しのよさなど、好感度、信頼度、親密度といったいわゆる“人間味”の視点から評価されることも往々にしてあり、毎年度の予算執行による政策の実現以外に、住民が市政に満足する要素は多岐にわたります。
市民が自治体に対して抱くこのような満足の向上、不満の解消もまた「自治体DX」が目指す付加価値の向上のひとつのあり方なのではないかと私は思うのです。

私の考える自治体そのものの付加価値とは、具体的には、市民と接する際の笑顔、市民の声を傾聴する真摯な態度、丁寧に説明を尽くす誠実さ、仕事の正確さ、公平さ、迅速さなど、仕事をするうえで付加する品質です。
あるいは、考えや行動のわかりやすさ、隠し事をしない公明さ、気軽に相談できる敷居の低さなど、組織としての態度や行動もこれに当たります。
こういった仕事の品質は市民の行政に対する満足度や信頼感に直結しています。
今、全国の自治体で、厳しい財政状況のなかで施策事業の取捨選択を迫られ、何を選び、何をあきらめるかという議論が行われていますが、お金のない今こそ、我々自治体職員はもっと「お金でないもの」で市民の満足を実現し、自治体そのものの付加価値を高めることに注力していくべきではないでしょうか。

「自治体DX」といえば、行政サービスのオンライン化や、SNSを活用した自治体と市民とのコミュニケーションなど、たくさんのアイデアがすでに実現していますが、その目指すべき到達点は業務の効率化、省力化ではなく市民に喜んでもらえる、好感を持ってもらえるための付加価値の提供。
まず市民の満足度や好感度の向上を図るという目的を掲げ、そのために昨今のデジタル技術を活用するという視点が必要です。
財政状況が厳しく市民のニーズに応えきれない今だからこそ、市民に満足を与える、不満を抱かせない業務遂行はいかにあるべきかをまず考え、それを実現するために市民と接する業務フローや体制、サービス水準、提供方法などについてあらゆる改革を同時に行う。
たとえ業務の効率化を行う場合であっても、それによるコストダウンが目的となるのではなく、そこで生みだされる人的資源を、機械に任せることのできない業務、人のぬくもりが必要な分野に再配置することを目的とすれば、市民の満足や信頼を得るために、という旗印が立ちます。
その中でデジタルの力を最大限に活用し、自治体そのものの付加価値を高めていくことが「自治体DX」の真の狙いです。

「自治体DX」を費用対効果で論じるのではなく、市民の満足や好感度に寄り添うことで、市民からはお金では買えない満足や信頼が得られます。
その努力の先にあるのは、結果的にお金がなくても市民から信頼され、市民の満足が維持できる自治体経営。
それこそが「自治体DX」の果たす自治体財政への貢献だと私は思っています。

※自治体向けwebマガジン「ジチタイワークス」に寄稿したものを加筆しました。元記事はこちら


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