見出し画像

続・豊かさの錯覚

半分しかないけど大丈夫?
大丈夫。半分もあるんだから。
#ジブリで学ぶ自治体財政

雑誌やwebサイトでよくある「自治体ランキング」で、自治体の財政を預かった経験者として看過できないものがたまにあります。
そもそも自治体を比較して順位付けすること自体へのアンチテーゼもありますが、今日は自治体を財政という切り口で比較する場合に私が気になる点をお話ししたいと思います。

最近気になったのは「豊かさ」という視点。
税収や基金残高が多い、経常収支比率が低い、財政力指数が高い、といった指標で、使えるお金がたくさんあることを以て「財政が豊かである」と評価することにいつも違和感を覚えています。
確かに使えるお金がたくさんあることは不測の事態に備えているという安心や、新たな施策に取り組む余裕があることを意味するので「財政が豊かである」という評価は間違いではありません。
しかし自治体は「財政が豊かである」ことを求められているわけではありません。
民間企業であれば利益を最大化することが求められ、売上から経費を差し引いた利益の額が企業の評価につながりますが、自治体は市民福祉の最大化が求められています。
自治体の収入から支出を差し引いた額がどれだけ黒字でも、基金をいくら貯めこんでいても、市民の福祉は最大化しません。
収入の多さや黒字の額は「財政の豊かさ」であったとしても、「市民福祉の豊かさ」ではないのです。

では「市民福祉の豊かさ」を何で測るかという話になりますが、例えば子育てや教育、福祉など、個々の施策がどれだけ充実しているかを施策のメニューで比較しても、施策目的別に市民一人当たりどのくらいの予算をかけているかを比較しても、その自治体がどの分野に力を入れているのかということを表すに過ぎません。
道路の延長や公園の面積、下水道普及率など、どの自治体も横並びで画一的なサービス水準を求められ、その到達度で「市民福祉の豊かさ」が図られる時代はとっくの昔に終わっています。
自治体ごとに異なる環境や多様な市民ニーズに対応し、その満足を実現しているかどうかが自治体ごとにその市民から評価されるべきであって、それは予算の額や施策事業のメニューを並べて他の自治体と比較しランキングできるものではないのです。

しかしながら、自治体経営にもっと関心を持ってもらいたいと思う立場からは、「豊かでない」こと、「余裕がない」ことに焦点を当ててほしいとは思います。
財政に余裕があることを市民に知らせることにさほど意味はありませんが、財政に余裕がないことは将来の財政運営の持続可能性に懸念があり、正確な情報を市民と共有し、市民の理解のもとで持続可能な自治体運営のために必要な方策を選択しなければいけません。
黒字の自治体、基金残高の多い自治体を優良だと評価するのではなく、毎年の経常収入で毎年の経常支出が賄えていない自治体、その赤字を埋めるために基金残高を減らしている自治体については、この状態を継続すれば、行政サービスを見直さなければならなくなるなど、市民生活に重大な影響を及ぼす可能性があるものとして警告を鳴らす必要があります。

これはランキング形式で他の自治体と比較する必要はありません。
「余裕がない」ことは他の自治体よりも相対的に良いか悪いかが問題ではなく、その自治体の単年度実質収支、基金残高、経常収支比率の絶対値が問題になるのですから、比較すべきはその自治体での過去からの現在の推移と将来予測です。
過去と比較し、あるいは将来を予測し、収支悪化傾向であればその要因を明らかにすることで対応方策が見えてきます。
収支悪化の原因が税収減であれば、税目や納税者のトレンドを分析することで将来の回復が見込めるか想定できます。
収支悪化の原因が支出増であれば、内訳として義務的経費、経常的経費が増えているのか、政策的経費、投資的経費が増えているのかを見て将来推計を行い、収支均衡のために支出を削減すべき経費や金額を想定することができます。
また、現在の公債(借金)残高や今後の投資計画から、将来の借金返済額の負担を見込むことや、公共施設の保有量から将来の施設維持・更新に要する費用の負担を見込むことで、将来の財政運営における費用負担リスクを想定することもできます。
すべてはその自治体の財政状況を過去、現在、将来にわたって把握し、評価すること。
その出発点としての現状評価は、他都市との相対評価ではなく絶対評価なのです。

このような分析の結果、自分の住む自治体が危険な領域に入っていたら「余裕がある自治体」に引っ越したほうがいいのか、あるいはどのくらいの余裕があれば安心できるのか不安だという方もいるでしょうが、ご心配には及びません。
大きな余裕がなくても、収支均衡を図って安定的に自治体運営を行う中で市民のニーズを満たせばいいのです。
逆に、余裕があるからといって贅沢をすれば支出の規模が膨れ上がり、いざ収入が減ったときの安定性が失われてしまいます。
大事なのは、自治体として財政運営上の危機に気づいているか、それを市民と共有したうえで、自治体運営の持続可能性を確保して市民の不安を解消しようと努力しているかどうか。
その共通理解のうえで自治体が市民の声を真摯に受け止め、本当に市民が望む施策事業を実施することで、限られた財源のなかで可能な限りの市民福祉の最大化が図られていることを市民が実感できるのです。
そういう意味では、財政情報の開示やそのことについての市民の認知度、市民の市政への関心や参画の程度についての他都市比較やランキングなら意味があるのかもしれませんね。

興味のある方はこちらの過去記事もご覧ください。


★「自治体の“台所”事情 ~財政が厳しい”ってどういうこと?」をより多くの人に届け隊
https://www.facebook.com/groups/299484670905327/
グループへの参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50/
フォロー自由。友達申請はメッセージを添えてください(^_-)-☆
★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
2018年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?