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冷ややかな傍観者に捧ぐ

やっと気が付いたよ 君の言うとおりだ
これからは市民との対話だよな
どういう風の吹き回しなの あんなに嫌がっていたのに
こっちの味方になってくれるならいいけどさ
#ジブリで学ぶ自治体財政

先日より真面目で保守的な公務員がどうすれば一皮むけるのかという話をしてきましたが,私自身のことを振り返ってみたいと思います。
皆さんは「DNA運動」をご存じでしょうか。
福岡市役所で2000年に始まった,地方自治体の業務改善改革運動の先駆的な取り組みで,「できる(D)からはじめよう」「納得(N)できる仕事をしよう」「遊び心(A)を忘れずに」を基本精神とする現場の実践運動です。
現場が発意する業務改善,組織風土改革の運動として,現場主体の改善改革発表大会「DNAどんたく」を始め,全庁職場を挙げて大変盛り上がり全国的にも注目されたこの運動も,推進していた市長が替わり,熱心だった職員や組織も雲散霧消する中で継承されずに自然消滅したかのように見えました。
しかし20年経った今,改めて福岡市役所内を見渡せばその当時に培われたD・N・Aの精神は今も息づいており,現場発意の進取の気風は脈々と引き継がれていると私は感じています。

先日,この運動が始まってから20年の節目に関係者でこれまでの経緯を振り返る機会があったのですが,そこで問題提起されたのが私自身のDNA運動との関わりとその変節です(笑)。
実は私はこの運動が隆盛だった200年代初頭,かなり冷ややかにこの運動を傍観していた「外の人」だったのです。
私の記憶では,盛り上がっている人だけが盛り上がっていて,そうでない人もたくさん私と同じように無関心,あるいは冷ややかに眺めていたという印象で,当時在籍していた財政課の中にはかなり批判的な意見もありました。
市役所内で改善改革の取り組みを発表しあうDNAどんたくも,やる気のある職場では大いに盛り上がっていたようですが,多くの職場ではネタ切れ,熱意切れ,人材ギレで青息吐息,数年経つと長く続けてきたことでのマンネリ感もあり,だんだん尻すぼみになっていったように記憶しています。

そんな冷ややかな傍観者だった私に心境の変化が起こったのは係長として財政課に在籍した5年間。
正直,市役所をやめたいなと思うことが何度かありましたが,辞めるわけにはいかないのでせめて外の空気が吸いたいと東京財団の市区町村職員派遣研修に応募し,2008年の春から秋まで福岡を離れ,早稲田大学の大学院とアメリカのポートランドで地方自治や行政経営について学ぶ機会を得て,たくさんの人と会い,たくさんのことを学び,自分が今までいかに井の中の蛙であったかを思い知りました。
財政課の仕事のやり方の矛盾を感じ,今,出前講座で話しているような,対話中心,現場中心のやり方に改めたい,そのためには職員一人ひとりが自分で考え,行動できる自律経営型の組織でなければ,現場に裁量とのモチベーションを与える仕組みでなければ,組織の中に「対話」できる文化がなければ,と考えたのもこの頃です。
私はこの研修でたくさんのものを身につけ,頭に詰め込み,意気揚々と福岡に帰ってきたのですが,研修で得たものを仕事で生かすことができない,というジレンマに陥ります。
それというのも,DNA運動を推進していた市長が2006年12月に落選し,そのあたりから,DNA運動そのものをみんなが口にしなくなっていたのです。
DNA運動が続いていれば研修で得たものをDNA運動と関連づけることができたのですが,私はそれからしばらくの間,研修で学んだことや「対話」の重要性を頭の隅に置きつつ,日々の仕事に没頭することになります。

先日の記事にも書きましたが,私が今のような活動を始めるきっかけになったのは2012年5月,市長から突然発せられた禁酒令を契機として突発的に始まったオフサイトミーティング「明日晴れるかな」です。
衝動的に始めた「対話」の場で,自分の気持ちや行動に共感を示してくれる前向きな仲間たちの存在が本当に心強かったことを記憶していますが,その仲間はもともと友人同士だったわけではなく,禁酒令というディープインパクトに反応して集った赤の他人同士。
実はこの多くのメンバーがDNA運動の洗礼を受けていたとは当時知る由もありません。
当時,私は財政調整課長という立場でもあり,行財政改革を進める旗振り役として財源不足の厳しさや行革の必要性を職員一人一人に理解してもらうことが必要だと考えていたものの,その理解をどう進め,共感に変えていくのか,悩んでいた時期でもありました。
このオフサイトミーティングで,自分の殻を破り,立場の鎧を脱いで気ままに語ることができるようになったおかげで,職員向けの財政出前講座をはじめ,東京財団研修で学んだ,対話中心,現場中心のやり方,職員一人ひとりが自分で考え,行動できる自律経営型の組織運営へと舵を切ることができたのです。
財政の経験を踏まえて改めて思うのは,これから先,自治体の抱える課題がある中で必要になるのが,職員や組織の創意工夫が常に生まれる組織の自律経営。
DNA運動の目指したもの,福岡市職員の心にまいた種はまさにこれでした。
単なるムーブメントではなく,自分で考え,自分の手を動かして解決する。
こんな普遍的な,しかも時代を先取りした考えをDNA運動が福岡市職員に植え付け,そのDNAが時代を超えて今も生きていることは感慨深いですし,気が付けば自分もまた,そのDNAを植え付けられていたのだと改めて思います。

冷ややかな傍観者が20年経って気が付けば自分自身が「対話の伝道師」として全国を巡り,改善改革を声高に叫ぶようになっていることを面映ゆく感じますが,それは決して無駄な遠回りではなかったのではないかと思います。
むしろ,DNA運動に熱を上げ,当時盛り上がっていた方には申し訳ないのですが,その方々が20年経って今,個人でどれだけ当時の思いを持続できているか,活動を継続できているかという話。
一つのことに情熱を燃やし続けることは難しく,環境が変われば自分自身の熱意を持続させるモチベーションも変わる,そんな中で,市長が二度も変わるような政治的背景があって,役所の中でのそれぞれの立ち位置が変わってくる中で,DNA運動に血道をあげた情熱をそのまま継続していくことなどきっとできなかったはず。
思いはあっても形にできないなかでそれぞれの心の中に残っている種火みたいなものを絶やさずに燃やし続けてこられたのは,その思いを継承した者たちが幹部職員研修にワールドカフェを取り入れたり,DNA運動推進を見守ってきた有識者を全く違う文脈の外部評価委員として招き入れたり,自主研究グループを組成したりと,その時その時で状況に応じてタスキをつないできたから。
そのタスキをつなぐ一人として,私自身が最初からではなくその活動がかなり下火になった段階から参加したことで,割と長めにそのタスキを持って走ることができたのではないかというのが今の実感です。

政権交代などの状況変化の中で誰かがそのエッセンスを残したいと考えてタスキをつなぎ,自分たちの心の中にある改革の種火を消さないように守り続けてきたそのことはすごいことですが,これは個人個人ではできなかったことで,その時々で何らかの活動を始め,継続してきた人の周りに,常に賛同してそばにいてくれる仲間がいたことが大きかったのではないかと思います。
DNA運動はそれ自体が仲間を作る取り組みでもありました。
そこで出会った同志たちが仲間となってつながり続け,環境が変化する中でも常に誰かが大事なものを守ろうという意識を持つことができ,それが価値あるものだからこそ,次の誰かがそれを見つけ,受け継いでいってくれたのでしょう。
オフサイトミーティング「明日晴れるかな」に集った初期のメンバーも,財政出前講座の開催を各現場で働きかけてくれた職員も,その多くはかつてDNA運動にかかわったメンバーでした。
そういった多くの同志たちが自分たちにできることを地道に取り組み,そのタスキが受け継がれていたからこそ,最初は冷淡な傍観者だった私も自分自身に起きた環境変化から衝動的に起こした行動でこの流れに乗ることができ,オフサイトミーティングや出前講座などを推進する力とそのための仲間を与えてもらえたのです。

保守的で腰が重い多くの公務員の皆さんに私がいくら「対話が大事」「市民の行政運営リテラシー向上のためにまずは自らの開示を」と言い続けても今は馬耳東風かもしれません。
しかし今は冷ややかな傍観者にすぎない皆さんも,ひょっとしたら何かのきっかけで動きたくなるとき,動かざるを得なくなるときが来るかもしれません。
その時に周りに一人でも多くの仲間がいる状況,誰もが共感し歓迎してくれるとは言わないまでも,まったく賛同者もいない孤立した状況を作らないための小さな種火だけは消さないように,今,私の声に賛同してくれる仲間とともにその情熱を絶やさずに燃やし続けておきたいと思っています。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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