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感謝の気持ちを礎に

この抜け道すごく便利!
作ってくれた人に感謝しないと
毎日お掃除してくれてる人にもね
きっと喜んでこの道を守ってくれるから
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
昨日に引き続き「対話は社会のインフラ」という話を続けたいと思います。
昨年4月に水道事業に携わるようになり、昨日の記事に書いた「対話は社会のインフラ」だという気づきは、この1年半取り組んできた私自身の業務に関わる経験から得られたものでした。
2022年春の定期異動で私は福岡地区水道企業団という組織に派遣されました。
当企業団は、一級河川がなく水源に乏しい福岡都市圏の水道用水を都市圏外の筑後川から導水し、人口260万人を擁し今も成長著しい福岡都市圏市町に配水する事業主体として設立された一部事務組合で、私はそこで総務部長という役職に就いています。
その福岡地区水道企業団が2023年6月1日に設立50周年を迎えました。
設立から50年の節目を契機に、水道用水の1/3を圏外の筑後川に依存する私たち福岡都市圏住民に改めてその事実を認識していただき、筑後川からの恵みに感謝する、そんな1年にしたいと思って日々奔走してきました。
その中で私はこれまで自分が様々な場で語り説いてきた「対話」について、業務として向き合うことになったのです。
この一連の取り組みについては、別に寄稿している記事をご参照ください。
 

 


  

この記事でご紹介しているとおり、私たちはこの取り組みを組織内部、職員同士の「対話」、自治体組織外の関係者、協力者との「対話」、そして自治体と住民、あるいは住民同士の「対話」という三つの「対話」の実践によって推進してきました。
では、これらの取り組みを通じて、福岡都市圏の特殊な水事情への理解はどの程度進んだのでしょうか。あるいは、都市圏住民から水源地域への感謝の気持ちは、どの程度届いたのでしょうか。
私は、この寄稿連載の最終話として、この取り組みをこのように総括しています。 

 市民講座、バスツアー、施設見学、ロゴや学習動画の制作、ありがとうの言葉を集めるプロジェクト等々、NPOや大学生、高校生など多方面の方々の協力を得て多種多様な事業を実施するなかで、一般市民から事業に協力いただいた方々まで、様々なかたちで福岡都市圏の水事情について改めて関心を持ち、学んでくれたことは、今後の企業団経営に必要な事業背景への理解浸透の礎を築くうえで重要な成果だと思います。
しかし、講座や見学ツアーの参加者が何名だとか、集まったメッセージが何通だといった数量を指標として事業の成否を論じるならば、260万人という福岡都市圏住民の規模からすれば、記念事業でアプローチできたのはその1%にも満たないわけで、水道企業団というマイナーな組織の行う情報発信の到達範囲、影響力には限界があると言わざるを得ません。
それでも私は、今回の記念事業では、今後の企業団運営、福岡都市圏の水道用水供給事業に不可欠な、重要な成果を上げたと考えています。
それは「インフラとしての対話環境」の整備です。
 
今回の記念事業で実践した三つの「対話」が何をもたらしたか。
職員同士の「対話」により、記念事業を企業団の職員全員で一丸となって取り組んだことで、組織横断でプロジェクトを実施する関係性の構築や目標の共有が進みました。
また、学生やNPOなどの外部人材との「対話」により、企業団事業への理解や信頼を醸成するとともに、協力したいという気持ち、自分にも役割があるという当事者意識を関係者間で培うことができました。
さらには、福岡都市圏の市民が発する水源地への感謝の言葉が水源地域に届き、水源地域の理解と協力が福岡のまちを支えているという自負につながる、この両者の相互理解に根差した信頼関係の構築に必要な「対話」の橋を架けることができたとも感じています。
私は、「対話」という手法を用いて何を成し遂げたかを評価するのではなく、これらの「対話」によって何かを成し遂げたという成功体験こそが、50周年の節目に私たちが築き上げた「インフラとしての対話環境」であり、これを50周年記念事業のレガシーとして将来に遺すことができたことが記念事業の何よりの成果だと評価したいのですが、いかがでしょうか。
 
「対話は社会のインフラ」という隠喩。
「対話」は道路や上下水道、あるいは通信ネットワークといった社会資本と同じで、その社会に暮らすすべての人が、いつでも安心して安全に使えるようにあらかじめ整備されていて、そこに暮らす人は普段その存在を当たり前のように感じ、それを活用するという意識を強く持ってはいないものの、それがないととたんに困るもの、といった意味合いです。
今回、私たちは、職員同士、組織の内外、さらには福岡都市圏と水源地域という利害のある二つの地域の間で「対話」が気兼ねなく行われ、相互に理解し、協力しようという機運、土壌を醸成する社会資本として「対話できる関係性」を確認することができ、その方法や効果を体験することができました。
この「対話」の実践により得たのは、これからの事業運営に必要な「対話」環境、さらには私たち自身の「対話」そのものへの自信です。
50周年記念事業そのものでの情報発信そのものは微力でしたが、私たちが「対話」ができる組織、職員であることを自覚し、世に示すことができたこと、そして、まだ緒に就いたばかりですがその成功体験を次の50年に向け後世に遺すことができたことを素直に喜び、当企業団の事業運営への寄与を期待したいと思います。
 
昨日の記事で私はこう書きました。
人口減少という逃げ道のない隘路が見えているからこそ、私たちはその行き止まりにたどり着く前に、きちんと「対話というインフラ」を整備しておかなければなりません。
料金値上げやサービスの縮小と言った都合の悪い話を切り出すタイミングで今更「対話」など始められるはずはなく、大事なのは、そんな深刻な状況に陥る前に腹を割って本音で語り合える関係性を築くこと。
それが市民と行政を「対話」の架け橋でつなぐ公務員=「まちのエバンジェリスト」の役割だと改めて思った次第です。
 
とはいえ、私が水道事業に携わり始めた昨年4月以降、「対話」を軸に据えて50周年記念事業を展開してきたその底流にこのような自覚がすでにあったわけではありません。
しかし1年半の「対話」で得られた手ごたえと、現下の水道事業者を取り巻く厳しい経営環境とを自分なりに受け止め、咀嚼した結果として、このような考えに至りました。
奇しくも先日開催した50周年記念式典の結びに、記念事業に関わっていただいた皆さんに対し、当企業団からの謝辞として、集められた水源地への感謝のメッセージを指しながら以下の言葉が述べられました。
 
「ここに集まった、「ありがとう」の気持ちが、次の50年の礎となります。
この「ありがとうの森」が大きく育つよう、我々はこれからも、都市圏と水源地を結ぶきずな、そして懸け橋で、あり続けます。」
 
対話は社会のインフラ。
それを整備し維持管理するというのは、誰が何に取り組むことなのか。
私にとっては、水道というインフラの整備・維持管理に携わり、50年間蓄積してきたいろんな方々との関係性を改めて見つめなおすこととなった50周年記念事業に注力してきたからこそ得られた気づきです。
このタイミングにこの職場にいたことで、その気づきを得られたこと、それを実際に体感できたこと、そしてそのことを言語化する機会を得られたことを改めて感謝し、このことをたくさんの人に広めていきたいと思います。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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