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意志あるところに道あり

互いにわかりあおうったって
それは無理な相談だな
お前のことを知りたいとも
俺のことをわかってほしいとも
俺は思っていないんだから
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日の投稿で「幸せな予算編成」を阻む不幸の要素として「理解してもらえない」「理解できない」「安全でない」「効率的でない」の4つを挙げました。
これらは予算編成の仕組みや仕掛け、あるいはその前提となる庁内の情報共有、意思疎通のための基盤(手続きだけでなくその前提条件となる組織風土も含め)を簡素で効率的、かつ実効あるものにすることで取り除くことができると書きましたが、実際は仕組みや仕掛けだけではコントロールすることが難しいものがあります。
それは個人の意思、意欲です。
理解し合うためには、相手を理解しようとする意思、相手に理解されようとする意思が必要です。
相手が理解できるようにわかりやすい情報を並べても、その相手が理解しようという意思を持って見てくれなければ理解には至りません。
こちらがいくら理解したいと相手の言葉を待ち望んでいても、相手が胸襟を開き、自らの思いを開示してくれなければその言葉を聞くことができません。
馬を水飲み場に連れていくことはできますが、水を飲むのは馬の意思。
馬が自分で水を飲みたいと思っていなければ馬に水を飲ませることはできないのです。

私は全国を行脚する出張財政出前講座の中で「対立を対話で乗り越える」と常に説いていますが、その説法の強力なアイテムとして、自治体経営シミュレーションゲームSIMULATION2030を用いています。
6人1組の参加者が仮想自治体の幹部職員となって、限られた時間の中で政策選択を行うロールプレイング(役割を演じる)このゲームのおかげで、「対話」による相互理解によって全員の納得を導く体験してもらい、「対立を「対話」で乗り越える」ことができると説いていますが、このゲームで得られる成功体験でその快感を味わうことができれば、きっと「対話」の重要性を感じ取り、「対話」によって合意形成を導くことができると確信できるはずです。
しかし現実的に考えれば、「対立を対話で乗り越える」には、解決すべき課題に対する当事者の目的意識を高め、この問題を解決するための「対話」に自分の時間や労力を費やさなければならないと当事者たち本人が考える動機づけが必要ですし、そのうえで「対話」の何たるかをあらかじめ知っていてその場に自ら赴くよう仕向けなければなりません。
ゲームであれば楽しそうだからと言って誘うこともできますが、予算編成をはじめ、私たち自治体職員が仕事で直面する課題解決の場面においては、そこに参加する人にその気がなければ「対話」そのものが成立するはずもありません。

私の経験を振り返ってみましょう。
私自身も財政課に係長として在籍した当時、現場と財政課との対立構造に悩まされ、情報共有、相互理解、互いを信頼しあう関係性がないことに絶望を味わっていました。
5年経って課長として舞い戻ってきたあと、財政出前講座をはじめとする財政課と各職場の情報共有を行い、枠配分予算制度の導入により自治体財政をジブンゴトととらえる環境を作り出したことで、徐々に現場と財政課の「対話」的関係が構築されていったわけですが、振り返ってみると最初から「対立で対話を乗り終える」ことの術を理解し、能書きを垂れていたわけではありません。
当時は、厳しい財政状況を職員一人ひとりが理解し、財政健全化を自分ごととして考え、自律的に行動してほしいという気持ちだけで、ある意味衝動的に動いていたことを思い出します。
財政課長自らが立場の鎧を脱いで各職場に出向くという前例のない行動に私を駆り立てたのは、私ひとりでこの状況を変えられるはずがないという無力感と、それでもこの状況をなんとかしなければいけないという責任感だけだったのです。

前述のSIMULATION2030だって、面白そうだからやってみたいという単純な理由で全国に広まっているわけではありません。
もともと熊本県庁職員有志の手で開発されたこのゲームの基本コンセプトは「既に起こっている未来を知る」ことでした。少子高齢化がもたらす人口減少社会に突入し、納税者が減り税収が減る一方で社会保障費や老朽化する公共施設の維持管理経費等の財政負担が増えていくというのは「既に起こっている未来」です。
このまま時間が経てば必ず収入と支出のバランスが崩れ、財政の制約によりやらなければいけないこと、やりたいことができなくなる。
たった10年ほど先にその厳しさが待っているという現状を私たち自治体職員が仮想体験し「既に起こっている未来」に備えられる人材になろう、というのがこのゲームが考案されたいきさつです。
SIMULATION2030は、この基本コンセプトを理解し、ゲームが提起する課題意識に共感し、自分もそこから何かを学習し、会得しようと考える人が、意欲を持って参加しています。
もちろんゲームとしての娯楽性はありますが、娯楽のみで人を引き付けているのではなく、その奥底には「この社会課題のことをわかってほしい」というゲーム製作者の意図が流れています。
「対話」の場も同じこと。知ってほしい、考えてほしい、と強く思う人がいなければ、その場が開かれることはありません。
私たち自治体職員が職場で、仕事で抱える対立を解く「対話」の場を設けるための鍵は、私たち自身がその対立を解決したいと願い、そのために当事者が知ってほしいこと、わかってほしいことについて、どれだけそう強く願うかということにかかっているのです。

翻って鑑みるに、「不幸せな」予算編成に携わっている多くの自治体職員が「要るものは要る」「ない袖は振れない」と平行線をたどる財政課と現場の相互理解のために互いに「理解したい」「理解してもらいたい」と願う意思を持つことは不可能でしょうか。
もし予算編成に携わる職員が現在不幸な状態で、その状態を逃れたい、幸せになりたい、と思う気持ちがあるのであれば、その道はすでに開けています。
予算編成に疲れている職員が歩むべき「幸せな合意形成」への道筋は、相互理解のための「対話」。
「対話不足」という自分たちの不幸の要因を理解し、その現状を変えたいと願う熱量、幸せになりたいと思う気持ちが強ければ、目の前に垂れた蜘蛛の糸に気づき、その糸を伝って地獄から天上へよじ登ることができるのではないでしょうか。
仕組みや仕掛けを変えるにせよ、その前提として職員の「対話」に対する理解を促し、「対話」への意欲を喚起するにせよ、まずは現在の不幸から抜け出したいと願う己の一念であり、その思いを組織で共有し、行動に移すことからではないかと思います。
その一助として、私の出前講座や著書、寄稿、ブログ記事などを活用いただければ幸いです(笑)。

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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