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何を削るかではなく

「財源ないから無駄な事業は全部削れー!」
「これ,削っていいですかね」
「今,どのくらい削ったんですかね」
「あとどのくらい削らないといけないんですかね」
「ここまで削っても大丈夫ですかね」
「わからんけど,とにかく全部削れー!」
#ジブリで学ぶ自治体財政

前回,思わせぶりな終わり方をしましたが,今日はその続きです。
地方自治体の税収が減り,入ってくるお金が少なくなれば,借金や貯金に頼るのではなく,今やっていることを見直し,収入に見合う支出まで削減するしかないのですが,収入に見合う支出まで削減するために皆さんは何をしますか?
「無駄,重複を省く」「低廉なものを使う」「事務の効率化を図る」「不要不急を控える」などが思い当たると思いますが,これは日々の業務の中で行われる「改善」のレベルであり,抜本的な改革には至りません。
ならば事業の「効果を検証」し「必要性を吟味」したうえで「効果の低いもの,必要性の薄れているものを抜本的に見直す」ということになります。
これって,全国のあらゆる自治体の行財政改革の方針めいた部分に書かれている文言ですが,具体的にどんな作業になるのでしょうか。

多くの場合は,行革担当部門から「見直し事業リスト」みたいなものが示され,そのリストに載った事業を担当する現場が「効果検証」や「必要性吟味」の検討を行い,「見直す」「ここまで見直す」「見直せない」と現場から行革担当部門に回答し,そのやりとりを役所の中で上まで上げていくという段取りだと思います。このプロセスを役所内部だけで行ったり,あるいは事業仕分けのように第三者を交えた外部評価機関で行ったりしているのではないでしょうか。
皆さん,このやり方うまくいってますかね?

ある事業の見直しを検討する場合,現場は必ずその事業がこれまで必要だったことを論証します。
確かに事業として始まっていますから,その時点で必要性があると判断していたわけですし,それが今まで続いているということもその事業が必要とされていることの証でしょう。
必要性が全くないことはないわけで,必要性が薄い,効果が薄いことというのはあるのでしょうがそう簡単には論証できず,全くゼロではないことからその事業の便益を享受している市民からは事業継続を嘆願する声が上がり,役所内部での議論はもちろん外部機関からの提言をもとにした見直しでも,市民や議会からの抵抗で頓挫してしまう,非常に難しい現状があります。
この壁が乗り越えられなくて,行財政改革がなかなか進まないと感じている方は多いのではないでしょうか。

実は,先ほどご紹介した事業見直しのプロセスには重要な視点が抜けています。
それは「何を削るか」という議論に終始してしまい「何をどう残すか」が論じられていないということです。
行財政改革で事業を見直すこと,止めることは,それ自体が目的ではありません。
事業の見直しは,その事業を見直すことで財源を浮かせて収入と支出の均衡を図り,将来にわたって安定した住民サービスを提供できる持続可能な自治体運営をしていくために行う手法に過ぎません。
自治体として必ずやらなければいけない事業を残し,住民が求めるサービスのうち優先順位の高いものを維持し続けるために,残したい事業,残さなければならない予算に比べて優先順位の低いものを削っていく議論,すなわち「何をどう残すか」という命題に対して,役所も市民も議会も真摯に向き合うことが必要なのです。

私が出張財政出前講座で提供しているプログラム,自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATIONふくおか2030」では,限られた財源の中で新たな政策選択をするためにあらかじめ与えられた既存事業を廃止して新規事業の財源を捻出してもらうというワークをやってもらっています。
新規事業をやるかやらないか,やるとしたらどの既存事業を廃止するか,グループごとに喧々諤々の議論をしてもらうのですが,ゲームが終わった後で私は皆さんに問いかけます。
「手元に残った事業カードを見てください。いいまちになりましたか?」
ゲーム参加者はその時点で初めて手元の事業カードの全容を眺めます。
それまで,何を削るかに終始していた彼らは,何のカードが残っているかの全体像をこの時に初めて知ることになります。
そして私は畳みかけるようにこう言います。
「残ったカードが示しているのがあなたのまちの将来像です。あなたは最初からこの将来像を目指していましたか?」

多くの自治体が行っている行財政改革の議論はこれに似ているかもしれません。
具体的な事業に切り込んで支出を削減する個別の見直しも大事ですが,それと並行して行わなければならないのは,まちの将来像の共有です。
厳しい財政状況のなかで将来どのようなまちを残していきたいか。
必ず実現しなければいけないまちの将来像はどういうものか。
その実現こそが自治体運営の目的であり,事業の見直しはあくまでも手法。
財源が限られ,あれもこれもできない制約の中で,それでも必ず実現したいまちの未来はどんな姿か,まずその姿が描かれ,共有できなければ,その将来像の実現に必要なものは何かという視点で個別の事業を語ることができないはずです。
そのうえで将来像の実現のために必要不可欠なもの,優先順位の高いもの,力を入れていくべきものはどれか,逆に優先順位を下げざるを得ないものは何かを議論していく。
このプロセスがなければ,個々の事業の「必要性」の議論がかみ合うはずがありませんし,強引に削ることだけに終始すれば,あとで手元に残った施策事業の全体像を見て「こんなはずじゃなかったのに」ということにもなりかねないのです。

以前,枠配分予算制度のメリットをご紹介した「やる気スイッチはどこにある」で私はこう書きました。

「新たな事業を始めるために既存事業を見直す「ビルド&スクラップ」であればどうでしょう。新しいことをやりたいときにそこで得られる課題解決の効果と比較して優先順位の低いものを見直していくのであれば,事業の見直しは目の前にある政策課題の解決という目的を達成するため手法となり,見直しの大義が立つわけです。」
「ビルド&スクラップ」は新しいことをやるために今やっていることを見直す,と私は説明してきましたが,財源が不足し,新規事業にまでとても手が回らない場合は「スクラップ&スクラップ」にしかならないとこぼす方もおられます。
しかし,今やっている事業のうち優先順位の高いものを維持する財源確保を「ビルド」としてとらえればどうでしょうか。
大事なものを守り抜くためにそれよりも優先順位が下位のものを苦渋の選択で捨てる。
それもまた「ビルド&スクラップ」であり,これを実効あるものとするには「何を実現するための見直しなのか」という「見直しの大義」をきちんと考えることから始めなければならないのです。

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