見出し画像

対話が拓く自治体の未来

わが社は今、最大の経営危機に瀕している
この難局を乗り切るには社長の私だけの力では無理だ
諸君の知恵を結集しあるべき姿、とるべき方策を描きたい
将来を担う君たちの声なくして先には進めないのだ
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日は京都市の財政危機問題を例に自治体の財政危機について書きました。

では、この危機を回避し安定的な財政運営へと回復させるにはどうすればいいのでしょうか。
巷では、他都市に比べ高水準とされる福祉政策の見直しや人件費の削減が取りざたされていますが、福祉の充実を謳い個人給付や減免等の経済的な支援によって市民満足を得てきた自治体運営の方向転換は、たとえ見直しが必要であったとしてもその実現は容易ではありません。

また、人件費の削減については数多ある地方自治体で財政健全化の方策としていの一番に挙げられる施策ですが、安易な「一律削減」については財政健全化の目的に沿った方策検討の議論を思考停止に至らせる恐れがあり、私は推奨しません。

そもそも行財政改革の議論で「他都市に比べて」といった議論が行われることにまったく意味がないとは言いませんが、他都市比較はあくまでも自分のまちのお金の使い道を評価する上で参考にできるモノサシの一つにすぎません。
地域の実情もそこに住む人々の価値観もそしてその中でこれまで培われてきた歴史文化や政治判断の積み重ねも全く異なるものを十把ひとからげでくくり、自治体運営の評価軸とするのはいささか乱暴で、そのことを根拠に何をどこまで見直すべきかを議論することはあまり適切ではないと私は思います。

とはいえ、地方自治体の税収が減り、入ってくるお金が少なくなれば、借金や貯金に頼るのではなく、今やっていることを見直し、収入に見合う支出まで削減するしかないのですが、収支不足の差額が大きくなれば「無駄、重複を省く」「低廉なものを使う」「事務の効率化を図る」「不要不急を控える」など日々の業務の中で行われる「改善」のレベルでは足りず、抜本的な改革として、事業の「効果を検証」し「必要性を吟味」したうえで「効果の低いもの、必要性の薄れているものを抜本的に見直す」ということになります。

しかし、多くの行財政改革の議論では重要な視点が抜けがちです。
それは不足する金額に目を奪われ、「何をどう削るか」という議論に終始してしまい「何をどう残すか」が論じられないということです。
行財政改革で事業を見直すこと、止めることは、それ自体が目的ではありません。
事業の見直しは、その事業を見直すことで財源を浮かせて収入と支出の均衡を図り、将来にわたって安定した住民サービスを提供できる持続可能な自治体運営をしていくために行う手法に過ぎません。
自治体として必ずやらなければいけない事業を残し、住民が求めるサービスのうち優先順位の高いものを維持し続けるために、残したい事業、残さなければならない予算に比べて優先順位の低いものを削っていく議論、すなわち「何をどう残すか」という命題に対して、役所も市民も議会も真摯に向き合うことが必要なのです。

民間企業であれば、経営者の判断として赤字が継続し収支の改善が見込めない事業分野から撤退することが可能ですが、自治体の場合、過去の政策決定を覆し、既存の施策事業を見直すことは容易ではありません。
それぞれの施策事業の政策決定においては、その必要性や効果が示されており「必要だ」「効果がある」という判断をしたという前提があります。
この前提を覆すことが自治体においてはなかなか難しいのです。

自治体は市民から預かった税金を財源とし、市民から自治体運営に関する権限の信託を受け、それを間違いなく市民福祉の向上に役立てるために各種の施策事業を実施しています。
このため「役所のすることは間違いがない」という信頼を自然と市民から得ており、そのことが日々の行政運営を円滑に行う上で大いに役立っています。
しかしながら、この「間違いがない」と信頼されている自治体がこれまでの方針を変更しようとすると「今までと説明が違う」との反発を浴びることになります。
また、自治体は個々の政策判断を自治体職員がやっているのではなく、市民から選ばれた議員が構成する議会での審議を経て合意を図り決定しています。
既存の施策事業を見直すには、これまでの自治体と市民との信頼関係を維持しつつもこれまでの説明に基づく合意を覆す新たな説明と新たな合意が必要になるのです。

限られた財源の中での政策選択にせよ、市民負担を伴う増税にせよ、その実現には納税者であり行政サービスを享受する客体としての市民の理解なくしては実現できません。
しかし、地方自治体は今、市民の十分な理解を得るためのコミュニケーションができているでしょうか。
行政運営に関する基礎的な理解も信頼も乏しい市民に既存の行政サービスの削減や増税による市民負担増を求めたところで納得や共感が得られるはずがありません。
財政的な制約の中で市民の理解を得て自治体運営を行うには、市民が社会経済情勢や自治体の財政状況に関して正しく理解し、その中で結論を選び取る議論に当事者として参画し、自分事として結論を出す過程が必要です。

人口減少という「既に起こった未来」で目前に迫る苦渋の選択が避けらないという現実を見据えれば、コロナ禍という未曽有の災厄を経験し、将来に向かって危機意識を共有できる今こそ、小手先の人口減少対策や目先の財源確保ではなく、自治体と市民、議会、あるいは市民同士で十分に情報共有と意思疎通を図ることができる「対話」の場づくり、苦渋の選択を乗り越えることができる意思疎通の環境整備こそが、最も求められているのではないかと思います。


今日も過去記事のまとめ読みとなりました。
詳細はそれぞれの記事やその前後の記事をご確認ください。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★書籍を購読された方同士の意見交換や交流、出前講座の開催スケジュールの共有などの目的で、Facebookグループを作っています。参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
https://www.facebook.com/groups/299484670905327/
★日々の雑事はこちらに投稿していますので、ご興味のある方はどうぞ。フォロー自由。友達申請はメッセージを添えてください(^_-)-☆
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?