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要はバランスの問題

貯金がなくなりそう。困ったわ。
そりゃ毎月もらうお小遣い以上に使ってりゃいつかなくなるわよ。
あたしに返すって言ってたお金,返せるの?
バイト見つからないなら,サブスクやめてお金浮かせたら?
#ジブリで学ぶ自治体財政

京都市の財政危機問題が報道を賑わせています。
この件で知人の現役公務員Youtuberはらしょーくんから依頼を受け,私なりに解説させていただきました。


巷では,寺社仏閣が多いので固定資産税が少ないとか,学生が多いので人口の割に納税者が少ないとか,税収が他の自治体に比べて少ないことを原因ととらえている報道やコメントもありますが,それはあくまでも他都市と比較しての収入構造の話であって,今般の財政危機に至った本質的な問題ではありません。

この件については昨年10月にこの問題が報じられた際にも記事を書いています。

詳細は過去記事を参照いただきたいのですが,もともと社会福祉関連経費の増加などで収支の不均衡が毎年発生し,その穴埋めに将来の借金返済原資として貯めている公債償還基金を繰り入れて一時的にしのいでいたことが顕在化したということであり,要は「①毎年必ず見込まれる経常的な収入と支出のバランスが崩れた」ことを「②基金を繰り入れてしのいだ」ことが問題です。
ではなぜこのことが問題なのか。
地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあり,原則としてある年度に必要な支出の財源は,同じ年度内の収入で賄うことになっているいことは,このnoteで再三書いてきました。

しかし,京都市では,毎年の収入と支出のバランスが崩れ,その状態が継続しているにもかかわらず,毎年行っている行政サービスを見直すことよりも,将来の借金返済のために貯めていた基金から一時借用して財源不足を補填するという資金繰りを優先していたのです。

実はここで多くの市民,あるいは自治体の職員ですらよく知らない事実が隠されています。

国は、必要な支出の額に対して収入が足りないとき、収入と支出のギャップを埋めるために「赤字国債」を発行することができますが、地方自治体では赤字を埋めるための借金は認められていません。
国が赤字を埋めるために毎年予算の大半を借金で賄っているので、きっと地方自治体もそうだろうと錯覚している方が多いのですが誤解です。
地方自治体は赤字を埋める借金はできません。

地方自治体は,道路や公園,学校など将来にわたって長く使い続ける社会資本の整備費用について,整備を行う時期の市民だけで負担するのではなく,その社会資本の便益を受ける将来の市民にも負担していただくことで世代間の公平を図る,という考え方か借金をすることが「例外的に」認められています。
では,どうして社会資本整備以外の名目で借金をしてはいけないのか。
これがまさに「会計年度独立の法則」によるのです。
仮に,市民が必要とするサービスを提供するのに十分な収入が得られないときにその不足額を借金で賄ったとします。
そうすると,将来の市民はその借金を原資としたサービスを受けられないのに,その返済だけを負担することになります。
これは明らかに将来の市民の予算編成権,自分たちの収める税の使途を決める権利を侵害しています。
私たちには、現在の自分たちへの行政サービスのために過去の資産を食いつぶす権利も、将来の市民が収める税金を先食いする権利もありません。
私たちは原則として、年度の収入で賄えないほどの臨時的なものを除いて、現在の自分たちが収める税金の範囲でしか行政サービスを受けられない、それが「財政民主主義」に基づく「会計年度独立の原則」です。
税収が減り,入ってくるお金が少なくなれば,借金や貯金に頼るのではなく,今やっていることを見直し,収入に見合う支出まで削減するしかないのです。

このことは多くの自治体にとって対岸の火事ではありません。

「うちは夕張みたいなことになりません」
多分、どの自治体の財政担当も同じ台詞を口にするでしょう。
しかしそれは、夕張のような不適正な会計処理を行わないから十数年にわたって巨額の負債が累積することはない、というだけであって、収支均衡が困難な場合に各年度の収入が支出を上回らないように支出を切り詰めていく際には市民負担を求めるか行政サービスの切り下げを行うしかない、という状況は夕張市も他の自治体も変わりはなく、その負担や切り下げの程度がどれほどのものか、という差でしかないのです。
毎年必ず入ってくる経常的な収入が減り、毎年必ず必要な経常的支出との均衡が図れずに過去に積み立てた基金を取り崩している自治体は、その取り崩し額がなくなった場合に単年度の収支均衡をどうやって図るかを考えてみてください。
基金が枯渇した段階で同等の収入が見込まれなければ、毎年取り崩していた基金相当額のコスト削減のために、新たな市民負担を求めるかサービス縮小を選択しなければいけないということです。

家計に例えればわかる話です。
毎月の収入が30万円しかないのに毎月50万円の贅沢な生活はできません。
毎月決まった収入が30万円の人は,毎月必要な経費は30万円の範囲でやりくりしないといけないということです。
それを貯金があるからと言って,毎月取り崩して食費や家賃など毎月必要なランニングコストに充てていけば,貯金がなくなった時点でその生活レベルを維持することはできなくなります。
月収50万円だった人が月収30万円になり,それが一時的なものでないのであれば,一時的には貯金で食いつなぐにしてもいずれ月収30万円にみあう生活水準に落とさなければいけないのです。

過去記事の抜粋ばかりですいませんが,ちょうどいい話題でしたので,関心のある方はまとめ読みをお勧めします。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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