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ゼロサムゲームか焼け石に水か

今度引っ越す町はすげえぞ
移住に力を入れていて
ひと家族100万円出すらしい
どんな町かはよく知らないが
嫌になったらまた別な町を探せばいい
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
前回、少子化対策と子育て支援について、解決すべき社会課題としての認識のずれからくる手法のずれを述べさせていただきましたが、迫りくる人口減少に対して全国各地の自治体で講じられている「移住・定住政策」についても同じようなことが言えるではないかとの共感をいただきました。
 
確かに同じようなことが言えます。
少子化同様、人口減少に対する多くの方の問題意識は、その地域で経済を支える労働力や自治体経営の基礎となる税収が減少し、地域での生活や行政サービスが立ち行かなくなる、という懸念です。
そこで「労働力減少」を課題としてとらえ「労働力の確保」のために他地域からの移住・定住を促進する。
そこには、少子化対策として考えられている「子どもの減少」に対応するための「親となる世代の確保」も企図されていることでしょう。
ある地域の人口が減るという課題に対し、それを他地域からの移住・定住で補おうという発想はロジックとしては間違っていません。
しかし、現に自治体が抱える課題の解決手法としてはいかがなものでしょうか。
 
「移住・定住政策」は、自治体人口の減少への対応策としてとらえたときに大きく二つの難点があります。
その一つは「ゼロサムゲーム」、もうひとつは「焼け石に水」です。
日本全体が人口減少局面に入り、自然増では今後再び国としての人口増加に向かうことがないことが明らかな昨今、外国からの移民受け入れ以外のすべての人口移動はどこかが増えた分どこかが減る、いわゆるゼロサムゲームです。
どこかの地域が「移住・定住政策」で成果を上げ、他地域からの移住人口を確保したとしても日本全体では同じことなのだから、各自治体で税金を使って血道をあげるのは無駄なのではないかという意見をよく聞きます。
私はこの意見に賛同しますが、だからと言って各自治体が「移住・定住政策」で競うことは、やり方にもよりますが自治体間競争そのものは悪いことだと思いません。
その理由は後に述べます。
 
同じく「焼け石に水」という理論。
自治体の人口減少は年を追って深刻化しており、そのスピードはちょっとやそっとの移住人口確保では補いきれず、結局人口減少を鈍化させる程度にしか機能しません。
また、他地域からの移住相談に真摯に対応し、やっと家族そろっての移住が果たされたとしても、移住してきた家族のうち、子供たちが成長して再びその地を離れることは否定できません。
このように考えれば、「移住・定住政策」は社会全体で大きく人口減少が続く中でこれを食い止め補う力を持たないというのが「焼け石に水」という考えです。
私はこれにも賛同しますが、だからと言って「移住・定住政策」がまったく意味がないとは思いません。
おやおや、前回の少子化対策と違い、今度はずいぶんと「移住・定住政策」をかばうじゃないか、と違和感を覚える方も多いでしょう。
実はこの違和感は、皆さんと私の「移住・定住政策」についての認識の違いからきているのです。
 
各自治体で「移住・定住政策」と呼ばれている施策は、移住相談の窓口を設け、相談を受け付けて移住に結び付けるための職業や住居をあっせんすること、その他移住してくる人が暮らしやすい環境を整えることが中心です。
もちろん、そのような取り組みを進めていることや、地域の住環境、就労環境の良さを対外的にPRし、自分たちの地域への移住・定住に関心を持ってもらうことについても、どの自治体も一生懸命やっています。
そうやって広報し、相談を受け、様々なあっせんのお世話を経て移住が成就した暁には「市外からの移住者〇〇人」と高らかに成果を宣言することになるのですが、この取り組みの中で最も大事なこと、つまり解決すべき課題の原因に迫り、これを排除改善する働き、政策の目的を実現する取り組みはどれでしょう。
対外的なPR?相談窓口の設置?職業や住居のあっせん?
実はそのどれでもないと私は考えています。
 
「移住・定住政策」で一番大事なのは「暮らしやすい環境の整備」です。
なぜなら、「移住・定住政策」は、「子育て支援」と同様に、人口減少に抗う社会的要請に応える人口増加の効果はわずかしかなく、しょせん移住したいと思う人個人の自己実現を応援するという効果しかないからです。
自然の多い環境で子どもを育てたい、通勤ラッシュから解放されたい、会社勤めをやめて農業や漁業、伝統産業などに従事したい、生まれ育った故郷で先祖が残した家や土地を守って暮らしたい、などなど移住を望む人たちの声はいずれも個人的な願望の実現です。
だからこそ、移住という成果を上げるためには彼らが望む新たな人生を実現する「暮らしやすい環境」を整備しておくことがなによりも必要で、そのことがこの施策のユーザー満足度を高めると私は考えています。
しかし、ここで疑問が生じます。
自治体が市民の税金を使って、個人の夢を実現してあげるのはなぜか。
しかも、税金を使う時点ではその自治体に住んでいない他地域の住民のために。
それは、彼らが移住してきて納める税金で賄えるものなのでしょうか。
 
ここに「移住・定住政策」が向き合うべき、真の課題が明らかになります。
「移住・定住政策」で一番大事なのは「暮らしやすい環境の整備」と言いましたが、これは移住者にとって暮らしやすいというだけでなく、今そこに住む住民にとっても暮らしやすい環境でなければなりません。
なぜなら、地域における人口減少は、現在そこに暮らす住民がその地域で暮らしていくことの難しさを感じていることにその原因があるからなのです。
過疎化で鉄道やバスが廃止になり公共交通での移動が困難になる。
病院や学校がなくなり、町の外に出なければ日常的なサービスが受けられない。
こうした課題認識からより暮らしやすい環境を求めて地域を去る人たちを無理に引き留めることはできませんが、そうした課題がありながらも、地域を愛し、地域に残る人たちに、その地域ならではのよりよい暮らしを提供することが「移住・定住政策」の真の目的でないか。
人口減少という課題の解決手段として、他地域からの「移住」政策を考えるのではなく、現在の人口を減らさないための「定住」政策をベースに考え、そのために可能な限りの環境改善を図ることが、課題解決のためにとられるべき最も適切な手法なのではないか。
私は「移住・定住政策」の真の狙いをこのように考えているのです。
 
したがって、「移住・定住政策」は減少する人口を補う移住人口の数で競うのではなく、暮らしやすさの自治体間競争です。
現在住民ではない人の自己実現だけをサポートするのではなく、現在の住民がそこに暮らし続けたいという願いを実現するために尽力し、その結果整備された暮らしやすい環境に魅かれて外部からの移住者が現れる。
外からの移住者の数は、その地域の暮らしやすさを外部から評価したインジケーターの役割を果たし、その数が多いことは外部からの評価が高いことを意味しますが、その数は他と競争できるものでもその地域の人口減少数と比較するべきものでもありません。
「移住・定住政策」は移住者の数だけ見ればゼロサムゲームですが、その競争の中でそれぞれの地域が自らの個性を磨いてよりよくなろうとするモチベーションが維持されることは大いに結構なことですし、人口減少を食い止める効果のない焼け石の水のように見えて、実は国全体が人口減少する縮小社会の中でも個々人が自分に適した地域でよりよく生きることができるWell-beingの実現に不可欠な、地域単位での取り組みなのだと思っています。
全国の「移住・定住政策」関係者の皆さん、この私の解釈、どう思いますか?
 
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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