インフラとしての枠配分予算
枠配分はお金を生む手法じゃない
限られた財源をシェアするだけだ
それがどうして財政健全化に資するのか
わからないならやる意味がないかもね
#ジブリで学ぶ自治体財政
最近、地方自治体の財政課の方から予算編成手法改革としての「枠配分予算」の仕組みづくりについてお問い合わせを受けることが増えています。
これまで全く面識も接点もない方から直接、電話やメールでお問い合わせがあり、webミーティングで、あるいは直接お越しいただいて、具体的なご相談を受け、私なりの経験や知見からアドバイスする機会をいただいています。
財政課を卒業してもう8年も経つのにまだ私の話が現役の財政課の皆さんのお役に立てるなんて嬉しい限りですね。
最近では、全国の自治体財政課の皆さんの勉強会組織である「新しい自治体財政を考える研究会」にも名を連ね、財政課も現場もハッピーになれる「幸せな合意形成」について考え、お悩み解決の知恵を絞ったりもしています。
この研究会ではこれまでオンライン講演会という形で枠配分予算の何たるかについて自治体財政課職員の皆さんに講義をしてきましたが、もっと細かいところをマンツーマンで相談したい、というニーズに応えるために始めたのが少人数による質疑応答一本勝負の“もっと知りたい!枠予算のススメ”です。
1回あたり60分で参加自治体は5つ。
講義講演は一切なく、参加自治体からいただく個別具体のご質問に徹頭徹尾お答えするだけというシンプルなつくりになっていますが、これが今大変好評を博しており、私自身も楽しく、また手ごたえを感じているところです。
ご参加いただいた自治体財政課の皆さん、ありがとうございます。
質疑応答は以下の記事で事務局より公開していますので、参加していない方でも情報の共有は可能ですのでぜひご一読ください。
今後も継続的にこのような機会を創っていきたいと思っていますので、ご入用の方は私ないし研究会事務局のほうにご意見をお寄せいただければと思います。
枠配分予算については、これまでも何度もここでご紹介していますし、書き溜めたものもたくさんありますし、全国各地でお話ししている出張財政出前講座でも、枠配分予算の素晴らしさを高らかに謳っています。
しかし、私は「枠配分予算」でなければいけないと言っているわけではなく、また「枠配分予算」を導入すれば財政の問題は解決する、と断言しているわけでもありません。
枠配分予算はお金を生み出す手法ではなく、限られた財源をみんなでシェアする手法ですから、事業の見直しが進まない、新規事業に充てる財源が足りない、といった財源不足の解決にそのまま資する手法ではないのです。
では枠配分予算は、私たちが直面している厳しい財政状況の何をどう解決してくれるというのでしょうか。
今から10数年前、私がまだ財政課の係長だったころ、「要るものは要る」と「ない袖は振れない」という交わることのない財政課と現場の意識の分断は私の財政係長時代の最大の悩み、苦しみの元凶でした。
同じ役所の中で、同じように市民のために汗をかく自治体職員として、この「分断」の中での議論に時間と労力を割くことが市民にとって本当によい施策事業の推進、財政運営に資するのかというのが私の根本的な問題意識でした。
施策事業を推進して市民福祉の向上を図りたい現場と、その財源を預かり適正かつ効果的にそれそれの政策分野に配分していく財政課。
この二者がそれぞれの置かれた環境を理解し、互いにその立場を尊重し、同じ方向に向かって「連携」して歩みを進めることができれば、内部の対立で浪費するエネルギーはそれだけ外側に向かって使うことができるし、たくさんの人智が結集することで文殊の知恵が生まれます。
現場と財政課が共通認識を以て政策推進と財政運営を「ジブンゴト」ととらえることで、より主体的に個々の持ち場での課題解決に取り組む意欲を持つことができますし、その達成について喜び、よりよいモチベーションを保ち続けることが可能になります。
枠配分予算は、そんな私の夢想を具現化したもの。
財政運営という難題に対して組織内の構成員が連携して取り組むための情報や立場の「共有」、庁内連携による分業に関する「共感」形成と具体的な「共働」のために組織内に埋め込んだインフラなのです。
枠配分予算は、組織内の分断によって分散しているエネルギーを一つの方向に集約し、効果的に活用するための「対話」を促進するインフラ。
財政運営というちょっとわかりにくく厄介な問題について、たった一人の財政課長がスーパーマンとしてすべての施策事業を切った張ったするのではなく、なるべく多くの人の知恵と力、そしてやる気を結集し、それぞれの役割や能力に応じた分担や連携で解決にあたるための仕組みです。
いかに予算編成や執行に投入する労力の削減を行いながら、自分たちが満足いく仕事、すなわち市民に対して自信をもって示すことができる施策事業の実施と健全な財政運営を実現することができるかに挑戦することになります。
従ってそのKPIは予算編成に携わる職員の労働量と仕事に対する満足度です。
枠配分予算の仕組みづくりで制度の精緻さや運用の平等公平に対する質問をよく受けますが、そこに力を注ぎ過ぎて、枠の設定のために過大な労力を割いてしまったり、枠配分のルールや配分額を巡って組織内で深刻な対立を生んだりという本末転倒を招いてしまっては何にもなりません。
予算編成に正解はなく、予算執行によりそれぞれの事業の効果が発現する中で自治体運営そのものが市民から評価されるにすぎません。
従って、正しさの追求に基づく現場の予算編成能力への懐疑や、財政規律、よりよい予算という価値観の絶対性の信奉は百害あって一利なし。
正しさよりもより多くの人に受け入れられるか、が求められる以上、たった一人のスーパーマンがすべてを決めてしまうのではなく、より多くの人が「ジブンゴト」と考えて当事者意識を以て関わり、対話し、その場に居合わせることによって納得するという過程にこそ価値があるというのが、私が枠配分予算を推奨している理由ですから、別に枠配分予算という手法にこだわらなくていいのです。
現場と財政課がともに同じ方向を向き、相互理解のために忌憚のない対話と真摯な議論を日常的に行うことができる土壌をどのように創るか。
そこさえぶれなければいいのですから。
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★書籍を購読された方同士の意見交換や交流、出前講座の開催スケジュールの共有などの目的で、Facebookグループを作っています。参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
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