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対話の正しい使い方

新規事業を今から立案ですか
予算編成も終盤なのに無理ですよ
市民との対話集会での提案だ
その場で市長も超ノリ気だったから
やらない選択はないよ
#ジブリで学ぶ自治体財政

これまで自治体の予算編成において「対話」が重要だという話を何度も繰り返し述べてきましたが,ちょっとだけ気をつけてほしいことがあります。
多くの自治体では,首長と市民が直接「対話」できる場が設けられています。
首長と市民がひざ詰めでざっくばらんな意見交換を行う中で,市民から寄せられる様々な意見や要望を拝聴しそれを自治体運営に活かすというのがこの場づくりの目的ですが,こういった「対話」の場に端を発して時々あるのが冒頭の一コマです。
普段会うことができない首長に直接会えるこの場を千載一遇のチャンスととらえた出席者が積年の思いを真正面から首長にぶつけ,首長として何らかの受け止めを表明せざるを得なくなること,ありますよね。
あるいは,何気ない意見交換から首長と市民の波長が合い,ある行政課題についての事業アイデアがふと沸き起こり,意気投合した首長がその実現に向けてアイデアを引き取るなんてことも。
相互に理解し共感しあう「対話」の場としては,形式的,儀礼的な挨拶や立場トークだけでなく,こういった実質的な意見交換ができたほうがいいに決まっているのですが,こういう場面でいただいた意見について「実現する方向で検討するように」という命が下り,そのアイデアの実現が実は現場の状況からなかなか難しいものだったときに面倒な後処理が必要になる場合があります。
「対話」の場で飛び出したアイデアの後始末をそこに居合わせていなかった現場が担わされ,そのアイデアの無責任さに辟易し,「対話」そのものに対する不信や不満が募る。そんな経験,皆さんお持ちでないですか?

「対話」の重要性を説くと「そうは言っても対話では何も決まらない」という人が多くいます。
それはその通りで「対話」は物事を決める場面で行うことではありません。
物事を決めるのは議論の場であり,「対話」は議論で物事を決める前の地ならしです。
物事を決める背景や目的についてどの程度情報共有ができるか。
対立する考え方を持つ人たちの立場や考え方をどれだけ理解できるか。
自分の立場,主張をどれだけ真摯に受け止めてもらえるか。
そういったことは議論によって深められていくという理解が一般的ですが,私は,その議論に入る前に「対話」を置くべきだと思っているのです。
互いにありのままの思いをぶつけ,それを真正面から受け止めることで,事案の目的や背景に関する情報を共有し,同等に理解することができるだけでなく,関係する当事者がそれぞれ互いの立場を尊重し信頼しあえるかどうかの関係性を確認しあうことができることになります。
その信頼感こそが,意見が対立したときに譲歩し妥協するときの心理的な背景になりますし,導かれた結論への納得性,当事者意識,その結論に従って行動しようという動機づけになると私は考えています。
「対話」はその後に置かれる議論の質を高め,結論の実効性を高める役割を果たしているのです。

議論に入る前に「対話」を置くべきと考える以上,逆に物事を決めるのであれば「対話」の後にきちんと議論を置き,対話のプロセスと区分すべきであろうというのが私の考えです。
「対話」は相互理解のための忌憚ない互いの開示と共有。
そこには否定も断定もない,互いのありのままを受け入れる懐の広さと,受け入れてもらうことを前提に思い切り素の自分をぶつける甘えが必要になります。
互いに受け入れる前提で交わされる言葉は信頼関係を築くためのものであって,出てきたアイデアの実現に向けた責任ある発言ではないという前提なのです。
発言者にその内容について責任を課せば自由闊達な意見交換ができません。
実現可能なこと,自分の立場から離れず責任をとれる範囲内での形式的な発言に終始することは,良質な結論を導くための議論の前に置かれる「対話」としては不十分です。
しかし,それが「対話」の場に求める前提条件なのであれば,その場で発言責任の呪縛から解き放たれて発せられた言葉は発言者が何ら責任を持つものではないことから,議論の俎上に上げるかどうかの判断を別に行い,もし議論の俎上に上げるのであればそこで改めて議論の責任をとれる者同士がきちんと検討し判断していくべきだと思うのです。

「対話」が大事だと思えばこそ,「対話」と議論の違いを峻別し,そのそれぞれがその本来の目的を果たせるように場をつくり,それぞれの目的に応じた機能を分担する。
それができないと「だから対話は嫌いなんだ」という不信が起こり,「対話」もせず,その結果まともな議論もできず袋小路に迷い込んでしまいます。
私はそんな風に「対話」という言葉の価値が棄損されるのは看過できません。
そこで皆さんにお願いです。
「対話」の場では忌憚のない意見交換を行うためにいったん発言者の責任は問わないようにしておき,「対話」の場で出てきた玉石混交のアイデアは,いったん別の場に引き取ってきちんと議論すべきかどうかを考える癖をつけましょう。
とはいえ,首長が「対話」の場で出たアイデアをその場のノリで引き取ってくるのを控えていただくのは簡単ではありません。
できることといえば,首長が配下の各職場,職員と普段から「対話」に勤しみ,その現状をきちんと理解共感しておくこと。
首長の不用意なリップサービスを抑止するのは,配下の各職場,職員との「対話」による情報共有しかないのかもしれません。

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https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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