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壊れ物注意

壊れましたって簡単に言いやがって
どれだけ金かけてきたと思ってるんだ
こいつがあれば何でもできるぞって
これまで磨き上げてきたのは水の泡かよ
なのに誰も責任とらないってどういうことだ
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
財政談義の一環としての人事系の話をもう少し続けます。
よく「人材」を「人財」と表記して組織として人を大事にすることを説く人がいますが、これは本当にその通りで、組織において職員は「財産」です。
 
自治体職員が行う実務の多くは直接人が行うことに代わる手段がないため、自治体では一定数の職員を常時雇用し、そのマンパワーで私たちは日々の仕事を遂行しています。
ひと昔前は自治体の公務職場での労働密度もそう高くはなく、市民から見れば9時から5時まで窓口に座っているだけだと揶揄されることもありましたが、市民ニーズの多様化、複雑化による事務の高度化と厳しい財政事情を背景にした定数削減が同時並行で行われた結果、今やどの自治体でも仕事量と職員定数のバランスが崩れ、過重労働職場の存在が問題になっています。
一定の業務量を処理するためには絶対量としての人的資源が必要で、これはいわば“業務処理マシン”という備品を購入しているのと同じで、そういう意味で「人は財産」なのです。(実際には購入費用はいらず月間利用料が毎月かかるサブスクリプション方式ですが。)
 
一方、市民の求めに応じて正確かつ遅滞なく業務を遂行するためには、仕事量に見合った職員数を確保するだけでなく、その業務品質が一定に保たれていることも重要であり、職員の確保はその質も適正である必要があります。
このため、どの自治体も職員採用に当たっては試験を行ってその能力を確認し、一定の水準を上回る者に職員の身分を与えたうえで、研修や職場での研鑽などの育成指導を通じて一人前の自治体職員に育て上げ、また、その能力の維持向上を図るための育成指導を行うとともに、人事評価や賞罰、福利厚生などにより労働意欲の維持向上を図っています。
これはいわば、先述の“業務処理マシン”のメンテナンスやアップデートにあたりますが、ここにも先ほどのサブスク契約とは別に、財産の価値減耗を未然に食い止める一定の投資や継続費用がかかります。
 
このように取得も維持も高額な費用が掛かる“業務処理マシン”を購入しておきながら、それを組織の財産としてどのくらい大事にしているのか、と疑いたくなることの最たるものが「壊してしまう」こと。
過重労働やハラスメント等、組織、職場で職員に与えた負荷が原因で心身を病んでしまうことがどの自治体でも増えていて、私の周りや知っている自治体職員さんでもそういう状況に陥り、体調不良を抱えたり、仕事を休んだりしている方がちらほらおられます。
こうした状況が起こると、心身を病んだ本人やそのご家族の人生設計を狂わせてしまうという責任が発生するばかりか、病気休職でその分定数が欠員になり、同じ職場の他の職員の業務負荷が増大するという問題も発生するため、人道的にも職務遂行、職場維持の観点からも非常に重大な問題であり、どの自治体の人事当局も非常に問題意識をもっておられることと思います。
 
しかし、私から言わせれば多くの自治体での人事当局の対応からはまだまだ人を財産として大事にしようという真剣な姿勢を感じることができません。
それは、高額な“業務処理マシン”を「壊したのは誰?」という責任追及のぬるさからくる、各職場での「壊れないように大事にしなければ」という意識の希薄さ。
壊れたら「あーあ、壊れちゃった。もう少し丈夫だと思ったのに」で済まされる組織文化に非常に憤りを感じています。
過重労働にせよ、ハラスメントにせよ、職場でそれを防止し、職員が心身を壊すようなことがないようにしよう、という掛け声は立派ですが、実際に多くの職員が「壊れて」しまうのを目の当たりにして、私なんかは「おいおいお前らこのマシンいくらすると思ってるんだよ」と言いたくなるわけです。
もちろん私は職員を、業務を処理する単純な機械備品だと思っているわけではありません。
ただ、こうやって職員が職場で次々と壊れていくのを見て、高額備品だったら弁償しなくてすむようにもう少し大事にするんじゃないか、とか、壊れた原因が特定できるのであればその実損分を個人求償することも視野にその原因者を厳しく追及すべきなんじゃないか、そうすれば意図的であるにせよ過失にせよ、壊してしまうことを未然に防げるのではないか、という経済的視点からのアプローチをしてしまうのです。
 
極端な話として「壊れる」ことを例に挙げましたが、大事な財産なら壊れないように大事に扱うことはもちろん、その機能が長く発揮されるようにメンテナンスを定期的に行うことや社会環境の変化に合わせたアップデートも必要です。
それらが職員個人の責任にすり替えられることなく組織の責任において行われるよう全体の仕組みを作るのが人事当局の役目ですし、各職場において「人を財産として大事にする」という思想哲学が浸透し実践されるように目を光らせ、賞罰のアラートを鳴らすのも人事当局の役目ではないかと私は思っています。
 
さらに言えば、職員を大事にすることで自治体組織全体のパフォーマンス維持向上が図られているか、職員を蔑ろに扱うことで組織の機能が低下していないかを市民がしっかりと観察し、評価し、組織運営の責任者である首長にその評価結果を返すと世の中になってほしい。
そういう市民の目に耐えるだけの自治体運営を行うのが首長の責任であると首長自身が意識し、そのリーダーシップのもとで職員が財産として大事にされる職場づくりが行われる。そんな世の中になってほしい。
職員が使い捨てされるような組織が市民の幸せを考えられるはずがないし、組織から大切にされていない職員が市民を大切に扱えるはずがないのですから。
 
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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