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ここにもお金がかかっています

委託から直営にかえて費用削減って、確かにうちの課の委託料予算は減ったけど、その分職員に負担かかって時間外も増えてるから、意味ないんじゃないの?
#ジブリで学ぶ自治体財政

行財政改革の議論の中で費用対効果を論じることがありますが、その際に我々地方自治体の職員が忘れがちな「事業費」の落とし穴が二つあります。

一つは「人件費」です。
地方自治体の予算では,どのような内容の事業をどういう経費の内訳でやるか,ということを決めていますが,大きくは目的別(事業単位でその目的に応じて「商工費」「土木費」「教育費」といった分野で分類)及び性質別(事業費の内訳を「報酬」「賃金」「旅費」「印刷消耗品費」「委託料」「工事請負費」といった経費の性質で分類)で区分し,整理され,目的別の区分はさらに細かく大事業・中事業・小事業という風に分かれ,小事業単位で執行管理されます。
問題なのは,我々職員の給与や手当などの人件費は,各事業単位では計上されておらず,ほとんどの場合は別の「職員給与費」という大事業でくくられているということです。

これは執行管理のしやすさや,一人の職員がいくつもの事業を担当しているときに事業単位での按分が困難なことから来るのですが,予算の計上及び執行管理において事業単位でカウントしていないことから,事業担当課ではその事業にどの程度の人件費をかけているのかという意識が希薄です。
また,職員人件費は義務的経費であって,事業をひとつ廃止縮小したからと言って直ちにそれが職員の定数削減等に反映され自治体全体の経費削減につながるものではないことから,行財政改革では人件費の縮減は人事・労務担当が所管し,定数や給与水準,手当等の見直しなど自治体全体の組織や労働条件のあり方として検討されることが多く,各事業担当課で検討されることはあまりありません。
このため,行財政改革の議論の中では予算を伴わない手間暇の部分への見直し意識が希薄だったり,事業の費用対効果を見るうえで人件費のコストを含まずに議論したりすることもあります。
民間企業の方からすれば「そんなバカな」という話かもしれませんが,これが実態です。

しかし,当然ながら事業を実際に動かすには必ず職員が頭で考え,手足を動かして働く「労働」がなければならず,そこには必ず時間単価×労働時間のコストがかかっていますので,事務事業の見直し(あるいは新規事業の立案構築においても)そこに人件費はいくらかかっているんだという意識を常に持つことが大事ですし,日々の仕事の中でも例えば会議で10人の職員を1時間拘束したら職員の時間給×10人×1時間のコストがかかっている,と考えるクセがつくくらいでなければならないのですが,まだそのような状態に至っていないのはお恥ずかしい限りです。

「事業費」の議論で忘れがちなもう一つは「減価償却費」です。
「事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。(中略)減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続です。(国税庁HPより)」
単式簿記の現金出納しかしない普通の地方公務員の皆さんにとってはちんぷんかんぷんな文言が並んでいます。
これも民間企業では当たり前すぎてなんでこんな話をしているのかと思われそうですが、我々地方公務員の多くはこの「減価償却費」という現金の支出を伴わない費用を認識することができません。

施設を作るときに莫大な経費がかかったとしても,施設が出来上がればあとは日々の維持管理費しかかからないと考えるので,施設整備費の財源さえ調達できれば費用を分割して各年度の必要経費にしていく手続きそのものが必要ないのではないか,と考える公務員はたくさんいます。
私自身、財政の仕事をする前までは、減価償却はあくまでも売上から経費を差し引いて利益をカウントし,そこから税を納める民間企業が費用計上の概念として知っておくべきことであって売上も経費も利益も納税義務もない地方自治体はそんなの関係ないと思っていましたが、それは大きな間違いです。
減価償却費の概念がないと、公共施設サービスを評価する際にイニシャルコストを無視してしまい、他のソフト事業や同種の官民サービスの比較、受益者負担の程度などを議論する際にミスリードしがちです。
また、別建てて予算計上している施設整備時の資金調達でつくった借金の返済についても、事業担当課で予算を所管しない(予算は財政担当が一括して所管)のでその施設整備が自治体財政に与えるインパクトも日常的には意識できません。
さらには、経年で減価償却費を累計していくことでわかる、その公共施設の評価額の減は、その施設を同規模、同価格で更新する場合に再調達が必要な資金の額やそれが必要となる時期の目安になるのですが、地方自治体の多くはそのような視点での資産管理を行っていないため、中長期的な収支見通しを立てる際に事業担当課で施設の建替更新コストへの対応について議論が深まらない、かみ合わないということもあります。
公共施設の維持管理と更新については自治体財政において大きな問題をはらんでおり、人口減少等の社会情勢変化への対応も含め、また別に書きますが、これまで「建てたらあとは維持管理するだけ」という単式簿記的な思想で会計管理をしてきたことの弊害も出てきているのではないかと思っています。

「人件費」も「減価償却費」も、事業担当課で現金支出しないものの、事業に係るコストであることは事実です。
しかし、それを普段から意識できない組織文化により、新規事業着手の判断や毎年度の予算編成での事業継続の評価、あるいは行財政改革の議論のなかでもその正しいコスト認識に基づいた議論ができていなかった可能性があります。
我々公務員特有の財政ルールのせいでこういった支障があるのであれば、そのことについて改めて行財政改革や毎年度の予算査定の中で議論することはもちろん、民間に準拠した会計ルールによる費用管理、資産管理を行うなど、職員が普段から知っておくべき自治体財政の基本として意識付けができる仕組み、仕掛けが必要なのだと思います。
このことについては国が公会計制度改革を推し進めていますが、果たして国も地方もどこまでその価値を理解し活用できているのやら。

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