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対立を対話で乗り越えるために

互いに理解も信頼もない相手との
交わらない平行線の溝を埋める作業
この労苦は誰の幸せを実現するんだい
一刻も早くここから抜け出したいよ
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨年6月に発足した「新しい自治体財政を考える研究会」の第2回開催が決まりました。

当研究会は、自治体財政や予算編成に関する課題を自治体職員の皆さんと、より深く共有し、職員の皆さん同士で対話し合うことで、新しい自治体財政のあり方やその実現の道筋を見出すことを目的に活動しています。
なかでも,今,研究会で力を入れているのが「新しい予算編成フロー」です。
自治体の厳しい台所事情のなかで繰り返される「要るものは要る」と「ない袖は振れない」の交わらない平行線の議論。
財政課職員だけでなく,現場の予算担当,事業担当の皆さんにも過大な負荷をかけ負の感情を抱かせる対立の悲劇をなくしたい。
その過程に携わる者が過度に疲弊せず,感情のしこりを残さず,来年もまたその渦中に身を置くことを厭わない仕組みとして運用可能なルーティンを考えたくて「新しい予算編成フロー」を検討しているところです。

予算編成において現場と財政課の職員がそれぞれ味わっている最大の不幸として挙げられるのは「理解してもらえない」いう声です。
結論が思い通りにならないことを「理解してもらえない」と考える,この不幸せを解決するための場づくりの工夫としては,自らの主張を語る場がどれだけたくさんあるかということはもちろんですが,そこで自らの主張を真摯に聴いてもらえることになっているか(先入観の排除,ルールの公平性,過程の透明性,主張の対等性の確保など),そして最終判断者への委任(最終判断者の第三者性または上位性,決断に従うという前提,判断者の能力への信頼など)が必要になります。
しかし私はむしろ,「理解してもらえない」と相手方に不満をぶつけている自分自身が相手のことを「理解できない」ことに不幸の本質があると考えています。
現場からすれば,予算を査定された理由,優先順位が低いと判断された根拠,そもそもなぜお金がないのか,どうして必要な事業に予算がつかないのかと不満に感じることばかりですが,財政課からすればそれはすべて説明可能であり,それを査定時に初めて聞いてわからなければ,普段からその背景を理解できる環境を整えておけばよいだけ。
財政課の現場理解についても,予算編成に入る前に現場が施策事業の遂行にどれだけ苦心しているかちゃんと知る努力をし,必要に応じてヒアリングを行い,あるいは現場にも出向いて情報を共有しておけばいいだけ。
それができないのなら現場に判断の責任と権限を委ねれば良いのです。

予算編成における「幸せな合意形成」を目指すには,「理解してもらえない」「理解できない」といった相互理解の不備に加え,「安全である」「効率的である」といった実効性,持続可能性の観点も必要になりますが,予算編成の仕組みや仕掛け、あるいはその前提となる庁内の情報共有、意思疎通のための基盤(手続きだけでなくその前提条件となる組織風土も含め)を簡素で効率的、かつ実効あるものにすることでこれらは実現できると書きました。
しかし、実際は仕組みや仕掛けだけではコントロールすることが難しいものがあります。
それは個人の意思、意欲です。
理解し合うためには、相手を理解しようとする意思、相手に理解されようとする意思が必要です。
相手が理解できるようにわかりやすい情報を並べても、その相手が理解しようという意思を持って見てくれなければ理解には至りません。
もし予算編成に携わる職員が現在不幸な状態で、その状態を逃れたい、幸せになりたい、と思う気持ちがあるのであれば、その道はすでに開けています。
予算編成に疲れている職員が歩むべき「幸せな合意形成」への道筋は、相互理解のための「対話」。
仕組みや仕掛けを変えるにせよ、その前提として職員の「対話」に対する理解を促し、「対話」への意欲を喚起するにせよ、まずは現在の不幸から抜け出したいと願う己の一念であり、その思いを組織で共有し、行動に移すことからではないかと思います。

組織の中での上下関係,官房と現場の権限と責任,首長,議会,市民からの圧力など,私たち自治体職員が「対話」で合意を導こうとしてもそれを阻む「力」は数多く存在します。
私たちはその「力」にどう対応していけばいいのでしょうか。
何らかの「力」によって導かれた結論は,表面上は合意の体裁を取りますが,「力」に服従し異論に口を閉ざした者は面従腹背という態度で反発し続けることが可能であり,それは合意の実効性を損ね,いつか隙あらばその合意を覆してやろうと反転攻勢の機会を狙う勢力が存在することで合意の持続可能性は不安定な状態に置かれます。
合意が成立しその合意が継続して守られるためには,その合意が当事者にとって最善でなくとも次善の幸せであることは必要条件なのであり,「力」による合意形成はその必要条件を満たしていないのです。

予算編成をはじめとする自治体組織内の合意形成は,合意することがゴールではなく,その実施によって市民福祉を向上させ,良好な自治体経営を持続させることを本来の使命としています。
しかし,「力」による合意は「財政課が査定した」「現場が抵抗した」「市長の指示だからしょうがない」と不承不承従うだけで,関係者の積極的な関与によりその品質を高めていくインセンティブに欠けています。
むしろ反発感情や他人事意識によってその品質は時間とともに劣化することから,持続可能性を期待されている自治体の本来の使命に反する可能性を秘めていることになります。
「力」による合意を継続することは,品質が高まらないばかりか持続可能性に乏しく,その「力」をより強めていかなければ維持できません。
人は自らの不幸からは逃れようとし,幸せであればその幸せをより高めたいと考えます。
予算編成が幸せであることは,その業務を担う職場の持続可能性はもとより,その業務の改善を通じて合意そのものの質を高めていくことも期待できることから,予算編成に従事する職員の幸福の最大化は市民福祉の向上のために必須なのです。

私たち自治体職員は,市民一人ひとりにとって幸せな合意を形成するために,市民幸福の最大化に向けた利害調整をそれぞれの立場を代位して担っています。
とすれば,予算編成における「幸せな合意形成」が市民幸福の最大化を意味するために必要なのは,私たち自治体職員がそれぞれ自らの頭で市民の幸せについて考え,その幸せを実現することを自分の幸せと感じ,そのために庁内で忌憚なく対話し,真摯に議論できることではないかと私は思うのです。
誰かが言うからではなく,強い力に流されるのでもなく,自分自身で考える。
それが正しいかどうかはわかりません。
正しいかどうかわからないからこそ,それを確かめるために言葉にする。
自分が言葉を発すると同時に,他人の言葉に耳を傾ける。
どちらが正しいかではなく,そういう立場,意見があるんだねと互いにその存在を認め合う対話があちこちで行われ,その繰り返しの中で多くの人が共有できたビジョンや方向性に沿って,互いの相違点を整理する議論に入っていく。
立場の違い,意見の違いを認め合いつつも,一つに決めなければいけないことに向き合う真摯な議論は,その前段に置かれた忌憚のない対話があればこそ。
様々な立場の市民が言っていること,口に出さないけど思っていること,普段何気なく感じていることを職員一人ひとりが具体的に想像し,その多様な意見を代弁して自治体内部でそれぞれの置かれた立場や階層ごとに幾重にも対話と議論を繰り返すことによって,市民の意見を総合した良質な合意が形成できるのではないでしょうか。

いかがでしょうか。
予算編成における「幸せな合意形成」とは,「理解してもらえない」「理解できない」という相互理解を阻む壁を崩す,忌憚のない対話と真摯な議論。
良質な合意を導くこの過程を,単なる精神論ではない具体的な手順や段階ごとの意思疎通の在り方として,安心して,効率的に,すべての職場で毎年のルーティン業務として繰り返すことができる方法論を示す。
これが第2回「新しい自治体財政を考える研究会」で目指すゴールです。
大風呂敷を広げてしまっています(笑)が,この高いハードルを越えるのは,今の境遇を不幸せと感じている全国の財政課職員自身です。
この不幸な境遇から抜け出したいと願っている皆さんの力を結集しましょう!

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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