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戦争を知らない子供たち

枠配分予算と一件査定
よりよい予算編成手法はどっちなのかしら
両方やったことないからわからないけど
今やってる方法で何か問題あるの
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
先日、とある自治体職員の方々から、私が福岡市で手掛けた予算編成手法改革についてのヒアリングを受けました。
拙著「自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?」を読んで感銘(笑)を受け、私が財政課長時代に取り組んだ「枠配分予算」や「財政出前講座」についてより詳しく知りたいとのこと。
この本自体2018年の刊行から5年も経過しており、そこに書かれた私の財政課時代の功績は2012年から2015年にかけての取り組み、すなわち10年近い年月を経たもので、ある意味「過去の自慢話」になってしまいがちなこの話題をどうすれば普遍的な教訓としてお伝えできるか、悩みながらのヒアリングとなりました。

私の手掛けた予算編成手法改革はとにもかくにも「枠予算」。
すべての事業の予算要求調書に財政課が査定を入れる一件査定ではなく、あらかじめ一定の財源を各部局に配分し、その範囲内で予算を編成する権限と責任を現場に委ね、財政課による中央集権ではなく各部局への権限委譲による自律経営を目指すとしたこの手法については、今まで幾度となくあちこちでお話ししてきました。
今回のヒアリングでも「どうして枠予算制度がうまくいったのか」という問いに対して、職員向けの財政出前講座による情報共有や、私自身がオフサイト活動などを通して財政課の高い敷居を下げ、フランクな意思疎通ができるよう心掛けたこと、あるいは枠の配分やその運用において、個別の事情に対応した融通を常に利かせていたことなどを挙げ、そういう工夫があったからうまくいったのだと得意げに話していましたが、その中でふと気になり、ヒアリングが終わった後も気になっていることがあります。
 
それは「枠配分予算制度は本当にうまくいったのか」ということ。
私が2012年に福岡市で本格導入した「枠配分予算」の仕組みは、市民に近い現場に創意工夫の権限を持たせることで、より市民のニーズに根差した施策事業が展開できること、また、現場の組織、職員が与えられた財源の範囲内でそれぞれの担当する政策を推進することで、効率的かつ効果的な財政運営を自律的に行い、事務事業の積極的な見直しが行われることなどを期待したものでしたが、制度導入により、福岡市は本当に市民のニーズに即した予算を編成し、効率的、効果的に執行することができるようになったのでしょうか。
また、それは予算編成手法の改革によるものなのでしょうか。
 
枠配分予算制度によってもたらされた最大の変革は、財政課に集中する査定権限の解体です。
事業の良し悪しから箸の上げ下げまでをすべて財政課が決めるという悪しき慣習を打破し「査定なき財政課」を目指したこの改革は、現場職員の「自立」「自律」を促しました。
財政課という他律的な支配から脱却することで現場は財政課の細かな口出しから自由になることができますが、その一方で与えられた財源、権限、条件から自分たちの責任ですべてを決定せざるを得ず、その説明責任、結果責任を負うことになり、この責任感が現場に「よりよい予算編成・執行」への自覚を促し、市民ニーズの把握やその実現に向けての努力、財源確保の工夫など、よりよい予算編成・執行を自らの手で行おうとする意欲につながります。
その結果として、市民にとってよりよい行政運営の実現に資するという論理展開なのですが、果たしてそのようにうまくいったのか。
明確な測定指標を持ち合わせていないため、あくまでも観念的な話になってしまっていますが、このロジックモデルが論理整合して機能していることは何によって証明されるのでしょうか。
 
導入された制度が問題なく機能しているかどうかの判断は、その制度が存続していること自体によって証明されると私は考えています。
問題があれば、よりよい方向に改善されるはず。
私自身も4年間の課長在任期間に毎年のように制度の微修正を行っていましたし、その後も福岡市では毎年少しずつですが制度設計の変更が行われていますが、枠配分予算をやめて一件査定に戻ろうという動きはこの10年間で一度も起こっていません。
現状は過去の追認の上にあり、現状の否定がなければ次の変革は起こりえない。
局区の自律経営の理想を掲げて導入した枠配分予算の仕組みが10年経った今も継続され福岡市の業務フローとして根付いている現状は、10年前に「査定なき財政課」を目指すと誓って財政課の権限を解体した一大決心を、すべての関係者が10年間追認し続けているからではないでしょうか。
 
だからと言って福岡市政に対する市民の非常に高い満足度が予算編成手法のみによってもたらされたというわけではありませんが、ただ確実に言えることがひとつあります。
私が予算編成手法の改革で福岡市にもたらしたかったのは、財政課と現場の休戦による平和。
枠配分予算制度の本格導入により、予算編成における財政課と現場の不毛な争いは激減し、このことは市民満足の向上に何かしら影響を与えていると思っています。

人は自らの不幸からは逃れようとし、幸せであればその幸せをより高めたいと考えます。
予算編成が幸せであることは、その業務を担う職場の持続可能性はもとより、その業務の改善を通じて合意そのものの質を高めていくことも期待できることから、予算編成に従事する職員の幸福の最大化は市民福祉の向上のために必須だというのが、私の予算編成手法改革の根底を流れる哲学。
10年前に導入された枠配分予算の仕組みが今も受け継がれているということは、そこに携わる人たちが改革前に頻発した不毛な争いが起こらない現状を追認し、さらなる改善を求めないほど現状に満足しているということなのだと私は思っています。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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