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大義なき戦いの果てに

予算査定で争って何になる
しょせんコップの中の嵐
互いの足を引っ張りあっても
市民にとっては一文の得もない
ここまで血道をあげるほどのことなのか
#ジブリで学ぶ自治体財政

「幸せな合意形成」への道筋を一緒に考えませんか?
全国の自治体財政課職員の皆さんにこの言葉を投げかけて以来,私もずっとこのことを考えています。

結局,大事なのは「対話」だと結論付けを行いつつも,それを実現するのは現在の不幸から抜け出したいと願う己の一念だと皆さんを突き放してしまいました。
そうは言っても世の中,己の一念だけでは「対話」なんて始まりませんよ,結局は力ずくで結論を導くのが関の山,と嘆く方もおられると思います。
組織の中での上下関係,官房と現場の権限と責任,首長,議会,市民からの圧力など,私たち自治体職員が「対話」で合意を導こうとしてもそれを阻む「力」は数多く存在します。
私たちはその「力」にどう対応していけばいいのでしょうか。

そもそもなぜ,予算編成が「幸せな合意形成」でなければならないのか。
まず一般的な話として「合意」とは当事者がそれぞれの立場から意見を主張し,その最大公約数となる幸せを求めた結果としてもたらされるものですから,その最大化が図られるべきものです。
次に,対立した異なる意見を調整した結果の「合意」については,その合意が関係者によって反故にされることなく誠実に実行される必要がありますが,そのためには単に議論が終結するのではなく,双方がその合意案を理解し,納得し,時には妥協して受け入れることが必要になります。
その合意が当事者にとって幸せなものでなければ,「本当の幸せ」を願う何者かによっていつかその合意は覆されるリスクを孕みます。
何らかの「力」によって導かれた結論は,表面上は合意の体裁を取りますが,「力」に服従し異論に口を閉ざした者は面従腹背という態度で反発し続けることが可能であり,それは合意の実効性を損ね,いつか隙あらばその合意を覆してやろうと反転攻勢の機会を狙う勢力が存在することで合意の持続可能性は不安定な状態に置かれます。
合意が成立しその合意が継続して守られるためには,その合意が当事者にとって最善でなくとも次善の幸せであることは必要条件なのであり,「力」による合意形成はその必要条件を満たしていないのです。

予算編成をはじめとする自治体組織内の合意形成は,合意することがゴールではなく,その実施によって市民福祉を向上させ,良好な自治体経営を持続させることを本来の使命としています。
しかし,「力」による合意は「財政課が査定した」「現場が抵抗した」「市長の指示だからしょうがない」と不承不承従うだけで,関係者の積極的な関与によりその品質を高めていくインセンティブに欠けています。
むしろ反発感情や他人事意識によってその品質は時間とともに劣化することから,持続可能性を期待されている自治体の本来の使命に反する可能性を秘めていることになります。
「力」による合意を継続することは,品質が高まらないばかりか持続可能性に乏しく,その「力」をより強めていかなければ維持できません。

自治体における予算編成は,この合意形成を反復して毎年やっています。
限られた財源の範囲で多岐にわたる政策分野をバランスよく推進するために,数多ある施策事業の実施の可否や優劣,その金額の多寡,手法の適切性や効果など,ありとあらゆる要素を加味し「要るものは要る」と「ない袖は振れない」の対立をそれぞれの施策事業を所管する部署との間で解消していく合意形成の作業は本当に骨が折れます。
私の経験でも,限られた財源と議論できる時間の制約から「力」で押し切ったこともありますが,良い査定でなかったことがあとでわかるものもありました。
現場からの反発を「力」で押し切れば,予算編成が終わった後もしこりを残すだけでなく,思考停止し「力」に服従することに慣れ切った現場から事務事業に対する真摯な検証,見直しの機運が失せ,官房部門が行財政改革の旗を振り,笛を吹けども現場が踊らず,実効性のある改革ができないというジレンマに陥ってしまいます。

私も係長で5年,課長で4年この作業に従事しましたが,毎年予算編成が明ける春にはもう二度とやりたくないと思い,秋に次年度予算編成に突入する際にはこれ以上ない憂鬱が襲ってくる,まさに逃げ出したいほどの過酷な業務でした。
その業務がなんの改善もされずに毎年同じ辛さが繰り返され,「力」による合意が生む現場の反発やサボタージュに対抗するためにより大きな「力」で服従を強いる負のスパイラルは悪夢でしかありません。
大義のない戦いで費やされる労苦を肯定できず将来にも幸せを感じることができない職場では,どんな熱意ある優秀な職員もその場に長く従事することはなく異動を希望し,また誰もその場に異動したいと希望することはないため,その業務をルーティンとして担う職場の持続可能性が懸念されます。
すべての職員が逃げ出したくなる職場でいい仕事ができるはずがないのです。

人は自らの不幸からは逃れようとし,幸せであればその幸せをより高めたいと考えます。
予算編成が幸せであることは,その業務を担う職場の持続可能性はもとより,その業務の改善を通じて合意そのものの質を高めていくことも期待できることから,予算編成に従事する職員の幸福の最大化は市民福祉の向上のために必須です。
「力」による予算編成は,関係職員の疲弊か合意の劣化,そのいずれかが明らかになった段階でおのずと限界に達し,それは予算編成の責を任う者の仕事ぶりへの評価に直結します。
仮に今,予算編成に関連して「力」により合意を図ることの虚しさを感じている関係職員諸氏は,心身に支障をきたす前に振り上げたこぶしを下し,「対話」による合意へと舵を切ってください。
安全な場所で指揮を執る司令官が何と言おうとも,前線にいる兵士が戦意を喪失して武器を置いてしまえば,戦いは終結するしかないのですから。

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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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