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対話が本当に必要なのは誰

俺たち何が気に入らなくて殴り合ってるんだっけ
俺は別にお前のこと嫌いなわけじゃない
みんながお前のこと気に入らないっていうから
じゃあ俺たちが仲直りすればみんな丸く収まるんじゃないの
#ジブリで学ぶ自治体財政

以前の投稿で私は、自治体職員に求められるものとして「対話力」を挙げました。
「対話」によって意見の違う互いの存在を許し合い、互いに心を開き合い、多様な立場から見えている世界の情報を交換し、その危機感や目指すべき未来を共有し、そこから導かれる苦渋の選択の場に居合わせる。
誰もが目指すわかりやすいゴールがあった成長の時代と違い、縮小する未来において何を遺すかという局面においては、理論的な正しさを追い求めるのではなく、合意形成の過程に居合わせその当事者となることがそれぞれの納得感につながっていくのだと私は思っています。

しかしながら、私たち自治体職員は「対話」が苦手です。
このことはこれまでも繰り返し述べてきました。
「対話」が苦手な私たち自治体職員は、市民の求める無謬性や公平性への過剰な恐れを捨てて、視座を一段高く上げ、「今、本当に大切なもの」を他者と語り合い、互いの視点や価値観の違いを認め合ったうえで対話によって合意形成を図り、適切な分担と連携で市民の福祉向上を図ることが自治体職員の本来の使命であると改めて認識してほしい、と私は思っています。

忙しくても、面倒でも、わかり合えていると思っている仲間同士でも、「連絡を密に取り合って」自分たちが目指している目的の共有、一緒になって進めている物事の現状や課題の共有を常に行い、そのうえで互いの強みや個性を生かした役割、作業分担にどう落とし込むか、を共有していくことが必要です。

苦手な「対話」ができるようになるには私たち自治体職員が市民や議会を正しく理解し、許容することが肝心です。

しかし、ここであらためて、皆さんに謎をかけてみたいと思います。
「対話」が苦手な私たち自治体職員が、市民と「対話」ができるようになるということは、実は自治体や自治体職員自身のためではないのではないか、という問題提起です。
自治体や自治体職員が「対話」が苦手なことで、どういう状態になっているのか。
自治体と市民、自治体職員と市民が分かり合えないというのは、本当は誰と誰の意思疎通を阻害しているのでしょうか。

以前、「対話の鍵を握るのは」で、議員は有権者の分身、「アバター」であるという考えを披露したことがあります。
議会は議論の場、物事を最終的に決定する場ですが、その場に居合わせることができない多くの有権者にとっては、議員が議論していることがあたかも自分が議論しているかのように感じられる、自分の分身の役割を果たしてくれれば。
あるいは、議論の前の対話の段階から、あるいはその前の雑談や愚痴の段階から、議員の活動を自分の分身として見守ることができ、そのアバターを通じて他の立場、意見を持つ方々と意思疎通することができる存在であってくれれば。
そうすれば、有権者が自ら対話や議論の場に臨めなかったとしても、そこにいたかのように、自分が「対話」し、互いに情報を共有し、立場を超えて理解しあえたかのように感じることができ、その結果、議員同士での議論で導かれた結論にも当事者意識や納得感を持つことにつながるのではないか、という考えです。

私たち自治体職員も同じです。
選挙で選ばれているわけではありませんが、実は私たち自治体職員が日々職場で議論や対話を重ね、庁内での合意形成を図り、方針を決定し、その方針に従って日々の事務を遂行していくこともまた、多様な意見を持つ市民の利害、意見の代弁者として、市民同士の対話や議論を代理しているのではないでしょうか。
自治体と市民との関係性も同じです。
自治体は多様な市民の立場や意見を代弁し調整する主体ですが、自らの独立した意志を持つ主体ではありません。
自治体が主張する意見や立場はすべて市民の誰かの意見や立場を集約し代弁しているものであり、自治体と市民との「対話」というのは多様な意見を持つ多種多彩な市民同士の情報共有、相互理解のためのものなのです。

ということは、自治体職員同士が、あるいは自治体が市民と「対話」ができないというのは、自治体で暮らす市民同士の「対話」ができないということになります。
同じ地域に住み、同じ空間で生活を営む市民同士が互いに理解しあえない、心理的安全性を保てないというのはとても不安で不幸なことです。
市民が互いに安心して暮らせる心理的安全性。
これを保持するために果たすべき自治体の「対話」に関する責任は重大です。
市民が互いに自らを「開き」相手を「許し」、認めあい、語りあい、手を携えて同じ方向に向かうためには、その意見や立場を代弁し調整する自治体が「対話」できなければいけない。
つまり自治体職員一人ひとりが「対話」できなければいけないのです。

そうであるならば、私たち自治体職員は、市民に対しても、職員同士についても「対話」が苦手などと言っていられません。
まず、私たち自治体職員が「対話」の何たるかを知り、その魅力とそこから導き出される効果を理解したうえで、実践を通じて「対話力」を向上させていく。
最初は個人対個人。職場や立場を離れたオフサイトから始めましょう。
そこからだんだんと職場同士、仕事の上でと「対話」を活用する場面を増やし、自治体が市民と向きあう「対話」や市民同士の「対話」をコーディネートできるようになる。
そうすれば自治体が直面する様々な課題について、それぞれの市民にとって納得感のある合意で乗り越えていけるようになります。
私たち自治体職員の「対話力」が、私たちのまちの未来を拓くのです。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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