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任せてやらねば人は育たず

「これ,メイがお母さんのところに持っていくの」
「メイちゃん,ひとりで大丈夫なのかい?」
「ひとりじゃ心細いからお姉ちゃんと一緒にいこうか」
「大丈夫 メイはひとりでいけるから」
「すごいねメイちゃん お母さんきっとよろこぶよ」
#ジブリで学ぶ自治体財政

「現場に任せて本当に適切な予算が組めるのか」
予算編成手法の議論をする中で、この場で何度もご紹介している「枠配分予算」についていつもこの疑問が呈されます。
現場に責任と権限を委ねることで市民のニーズに即した最適な予算が編成できるという私の考えから言えば、財政課が査定することで予算が最適化されるわけでは決してないという話を以前書きました。

財政課はあくまでも自治体予算の全体像を把握し、その態様やバランスを調整することに長けているだけであって、個々の施策事業についてより市民ニーズや現場の状況に即して効果的、効率的な手法に仕上げるノウハウが備わっているわけではありません。
あくまでも全体の調整をする中で個別の施策事業の内容に切り込み、査定を繰り返すうちに自然とその経験値が蓄積されているだけで、その能力には個人差もあり、現場の情報収集力も相まってその査定判断の適切性に首をかしげる現場の方もおられることでしょう。
実際問題、首長が査定に関与するほどの大きな政策、施策でなければ、与えられた金額の範囲内でまずまずのパフォーマンスをすればよく、新たに政策判断を要しない経常的な経費について、予算編成の現場で現場と財政課が箸の上げ下げを喧々諤々議論し互いの時間を浪費する必要はありません。
現場のことは現場に任せればいいのです。

しかし、私が福岡市で「枠配分予算」の仕組みを本格導入した際にも議論されたのが「現場の予算編成スキルをどうやって向上させるか」という問題です。
先日もこのことで議論したのですが、この問題はなかなか正解がありません。
無数の事業予算を査定する経験を組織的に蓄積した財政課のノウハウを現場に移転しようにも、明文化されたマニュアルがあるわけでもなく、その集合知を移転するための研修や業務支援の仕組みは現場が適切に予算編成を行ううえで足りないものを補完するものにすぎず、目指すべきは現場の職員が適切な予算を組めるようになることそのものです。
では、現場が財政課の指導助言や査定がなくても自分たちで自律的に最適な予算を組めるようになるには、どういう手だてが必要でしょうか。

やってみせ 言って聞かせて させてみせ
ほめてやらねば 人は動かじ

あまりにも有名な山本五十六の「男の修行」の一節です。
ご存じの方もおられると思いますが、この一節には続きがあります。

話し合い 耳を傾け 承認し
任せてやらねば 人は育たず

やっている 姿を感謝で 見守って
信頼せねば 人は実らず

組織を動かすことは人を動かすこと。
しかし、人を単に意のままに動かすのではなく、承認し、任せて人を育て、信じて見守ることでその成長を結実させる。
そうやって一人ひとりを育て、成長させることで組織が育ち、機能する。
私はそのことを「枠予算制度」による組織の自律経営を通して痛感しています。

財政課が手取り足取り指図して、財政課の意のままに現場を操ることなどできるはずがなく、無理にそうしようとすれば必ず感情的な対立が起こります。
面従腹背、疑心暗鬼の組織運営は、内部の騙しあいやマウンティングにエネルギーを消費し、労多くして実りがありません。
しかし、現場が適切に判断することができると信じて権限を委ね、その現場判断を尊重しながら、財政課は全体最適のためのフレーム、アウトラインの調整に専従することで、権限を委ねられた現場には与えられた権限をより適切に行使しようというモチベーションが生まれ、そのやる気が現場のスキルアップの意欲の源となるのです。

人を育て、組織を育てなければ、組織は持続しません。
永遠にたった一人のスーパーマンが財政課長に君臨し、すべての予算を査定し続けることが不可能である以上、権限の委譲により多くの担い手を育て、現場の末端までその精神が浸透することで、刻々と変化するそれぞれの現場の状況に応じて、予算の編成や執行に限らずとも、わざわざ大脳中枢にお伺いを立てず脊髄反射的に現場で反応できる組織になる。
枠配分予算による組織の自律経営は、そんな組織を育てるための手法なのです。

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