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配られない通信簿

今年も昇任できなかった
あれだけ頑張ったし成果も出したのに
課長も推薦してるって言ってたのに
こんな出先でいくら頑張っても
人事課には届かないのかな
#ジブリで学ぶ自治体財政

 毎年、全国で悲しみの雨が降ります。
がんばったのに報われないという不満。
どうして昇任できなかったのか、どうすれば昇任できるかがわからないという不安。
上司は、人事課は、ちゃんと自分を見てくれているのかという不信。
課長から「俺は推薦していたんだけど」という責任転嫁の言い訳が述べられ、人事のことを知る先輩からは「すべての人が満足する結果が得られることはないから腐らずにがんばれ」と諭され、それでも納得がいかず悶々としている方々、いっそこんな組織辞めてしまおうかと自暴自棄になっている方もおられることと思います。
頑張ったのに評価されないのなら、いっそ頑張らないほうがいいのではないか。
そんな考えがふと頭をよぎる人もいるでしょう。

 行政は「頑張っただけ損をする」組織になっている、なんて指摘もあります。
仕事ができる人ほど多くの仕事が降ってくるのに、より多くの仕事をさばいたからといって、大幅な給与格差がつくわけではなく、同期と比べて大幅に出世することもないのが公務員の職場。
仕事が早く終わる人には余裕があると勘違いされてさらに仕事を振られたり、時間外業務の削減に取り組んだ結果として「楽なところ」と認定されて定数を減らされたり。
こういう環境であるのをいいことに忙しいふりをしてわざと生産性を下げ、ちゃっかり残業代だけ稼ぐなどというのは論外ですが、頑張ったことの報いがなく、頑張っても頑張らなくても同じ、あるいは頑張っただけたくさん仕事をさせられたり、忙しい職場に抜擢されたりして大変だからいっそ頑張らないほうがいい、などと職員が考えてしまうというのは、組織全体の生産性を下げるという意味で非常に問題ですが、実態としてこういう側面もあろうかと思います。 

頑張った人が報われる人事評価の仕組みを求める声は多く、私も今の公務員組織が運用している人事評価の仕組みにはまだまだ改善すべきところがあると考えています。
頑張った人がきちんと評価されているのか、担当業務とその人の持ち味、長所や短所との相性も含めて、取り組みの過程や成果をうまく評価できているのか、という点も、管理職になって以降私自身が評価する側としていつも悩んでいるところです。
がしかし、そもそもこの「人事評価」について、私たちは大きな誤解をしている(させられている?)ということに気が付きました。
それは毎年繰り広げられる春の人事異動で「昇任」「異動」が思い通りになった人とならなかった人の悲喜こもごもの中で聞こえる「きちんと評価された(されなかった)」という声です。
「昇任」「異動」は果たして本当に人事評価の結果なのでしょうか?

 日々の仕事が要求される水準に達しているか、役に立っているかは、それ自体がその都度評価されるべきであり、それを昇任や異動などの処遇で評価することには限界があります。
昇任や異動で本人の満足を得ようにも、それだけのポスト数を用意できず、希望をすべて叶えることなんぞできっこありません。
それなのに、あたかも昇任や異動をがんばったご褒美であるかのように振舞い、それをありがたく受け取る組織文化になってしまっていることが問題なのです。

 「昇任」や「異動」は、個々の人事評価の結果ではありません。
限られた人員で多種多彩な施策事業を担当し、各分野での課題解決を着実に遂行するために行われる、組織編制という巨大なパズルのピースとしてそれぞれの人員をはめ込んだ結果、それぞれの個人に対し「昇任」「異動」という事象が生じたものにすぎず、昇任=評価、昇任しなかった=評価されなかった、という意味ではないのです。
そもそも人事評価はすべての職員が対象期間内に行った仕事について評価されるものであり、実際に評価者が評価するところまではそのように事務が流れていきます。
しかし、その内容を本人に十分にフィードバックせず、春の人事異動がその評価結果であるかのように喧伝されていることが最大の問題です。

これは例えていうならば、学校で実力テストを受け、その採点結果がすぐに返ってこないうえに、先生からなんの指導もなされず、学期末に一部の人にだけに昇任や花形職場に異動した人だけに「よくできました」と通信簿が配られるようなものです。
テストと通信簿の関係もよくわからないし、通信簿は全員に配られない。
通信簿が配られない、すなわち昇任や異動という人事課からの結果発表がない人には人事課からのメッセージが何も届かないので、昇任や異動がないことをもって自分の仕事は人事課から評価されていないと理解するしかない、そんな風に人事評価と人事異動を混同してしまっていることが悲劇なのです。

 人事異動は人事課の仕事ですが、人事評価は所属長の仕事。
人事課は所属長が評価している本人の能力や適性、本人の希望やキャリアプランを踏まえた今後の育成方針などを情報として収集し、人事課が行う人事異動の原案を作る際に参考としているに過ぎません。
最近では業績評価を賞与に反映する仕組みも制度化されてきましたが、対象者の選定や評価は原則として所属において行われ、それを人事課でとりまとめるのが通例です。
私たち公務員が自分の仕事を適切に評価されていないと誤解してしまうのは、人事異動による昇任や異動といった処遇が私たちの評価を通知する通信簿だと誤解し、あるいはそれを誤解させたまま放置している組織文化の問題です。
人事評価は人事異動として別のものとして、昇任や異動の対象となっているか否かにかかわらず、日々の時間を一緒に過ごし、職員の一挙手一投足を共有できる所属において直属の上司がきちんとその成果や課題を現認し、年に一度の面談の時期に限らず適切な時期にほめる、あるいは指導すること。
そして適切な時期に面談を行い、本人が持つ自己の能力や適性の自覚、キャリアプランなどを聴き、その実現に向けてのアドバイスを行うこと。
所属において上司が日々そういった「評価」を本人に対して行っていれば、毎年この季節に悲しみの雨が降ることもそう多くはないのではないかと思います。 

公務員の仕事が営利を目的としていない以上、その「評価」とは、昇任や昇給といった経済的インセンティブを授けることではないと私は考えています。
多くの公務員は、昇任により得られる具体的なご褒美のために仕事をしているわけではないと思いますが、では何をインセンティブとして与えることが公務員のモチベーションを維持向上させるのか、また、昇任により上位の職責を得てより大きな権限を持つことをモチベーションとすることの適否についてはまた別の考察をいずれ別稿にてご披露したいと思います。 

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a

★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/

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