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衝動に背中を押され

対話を通じた市民理解の促進?
そんなめんどくさいことやるのかよ
その分きっちりお手当がでるのかい
まさか仕事増やしてタダ働きじゃないよなあ
#ジブリで学ぶ自治体財政

私は今まで、よりよい自治体運営のためには市民の行政運営リテラシー向上を図ることが必要で、それは行政運営の実務を担いその実情が最もよくわかっている自治体職員が行うことが望ましいのではないかと再三書いています。

また、私たち自治体職員が日々職場で議論や対話を重ね、庁内での合意形成を図り、方針を決定し、その方針に従って日々の事務を遂行していくこと自体が、多様な意見を持つ市民の利害、意見の代弁者として、市民同士の対話や議論を代理しており、多様な意見を持つ多種多彩な市民同士の情報共有、相互理解を進めるためには自治体職員一人ひとりが「対話」できなければいけない、とも書いています。

以前の投稿では、自治体職員が「対話」が苦手で縦割りやたらいまわしが横行する理由として、市民が期待する無謬性や公平性について過剰に反応し恐れていること、また生真面目な気質が災いし、自分の頭で納得しないと動かない強い自我が形成されていることを挙げました。

失敗したくない。リスクを取りたくない。無用な批判を浴びたくない。
自治体職員の多くは保守的で腰が重く、改善改革の必要性やその手法を理解していたとしても、なかなか能動的に動かないという特性があります。

とはいえ、もともと給料や昇任のインセンティブがなくても自分が担当している業務をより領域拡大し市民サービスの向上を図りたいと考える自治体職員の強い自我、使命感が、多岐にわたる自治体業務を安定的に遂行する機能の根幹。
公務員は雇用が安定しているため、身分や給与水準によるモチベーションの付与が難しい職種ですが、だからと言って自分が楽をしたいという利己的な理由で日々の業務をよりよくしていくことや、市民福祉を向上させ、未来に夢の持てるまちづくりを進めることを怠る職員ばかりではありません。
ほとんどの職員は職務に忠実で、与えられた仕事はきっちりこなす優等生です。
この真面目さ、自我の強さ、責任感を生かしつつ、これからの自治体運営に不可欠な「対話」の促進や「行政運営リテラシーの向上」に向け、新たな一歩を踏み出すことに躊躇する多くの保守的な公務員の背中をどうすれば押すことができるのでしょうか。

私自身、オフサイトミーティング「明日晴れるかな」で対話の魅力に取りつかれ、財政出前講座を引っ提げて全国各地を回り続けてもう9年になります。
財政課長でなくなってからすでに6年目を迎え、今さら財政のことを語る資格があるのかどうかもよくわからないまま、この場で自治体財政よもやま話を書き連ね、講釈を垂れているその情熱の源泉はどこにあるのか。
その始めの一歩は危機感でした。
市長が全職員に禁酒令を出すという前代未聞の事態に我を忘れて衝動的に始めたオフサイトミーティング。
市職員の間に動揺と混乱が広がるなかで、私を含めた職員有志が「何とかしたい人全員集合!」と銘打って声をかけたオフサイトミーティングは、飲酒自粛要請を受けた1か月の間に6回開催されました。
市職員としてこの事態をどう受け止めるべきなのか、改めるべき組織風土や職員の気質などについて語り合い、建設的な意見ばかりではなく、不安や不満も入り混じる本音の「対話」が1か月続き、そこから得られたのは禁酒令の是非や不祥事防止のための処方箋ではなく、「職場を離れて集まって話すのって楽しいね」という「対話」の喜びでした。
この1か月の「対話」を通じてその価値を再認識した私たちは、「禁酒令」の期間が終わった後も、誰でも気軽に参加できる「対話」の場を有志で継続的に開催することとし、9年経った現在も続けられています。

危機的な財源不足を埋めるために全職員の理解と協力が不可欠と感じて始めた財政出前講座。
厳しい財政状況を職員一人ひとりが理解し、財政健全化を自分ごととして考え、自律的に行動してほしいという気持ちだけで、ある意味衝動的に財政課長自らが立場の鎧を脱いで各職場に出向くという前例のない行動に私を駆り立てたのは、私ひとりでこの状況を変えられるはずがないという無力感と、それでもこの状況をなんとかしなければいけないという責任感だけでした。
「自発的に」「楽しみながら」「心理的ハードルを下げて」といったこだわりが功を奏し、参加者は増え続け、課長在任期間の4年間で80回、受講者は2000人を数えました。
「財政出前講座」は、必ずしも参加者と講師である私との直接の「対話」の場ではありませんでしたが、財政課が現場それぞれの立場の持つ心理的な壁を崩す役割を果たし、そのおかげで、互いの意見を尊重できる信頼関係が生まれ、組織間の「対話」による建設的な意思形成ができるようになったのです。

始める勇気は危機感からくる衝動。
続ける情熱は他人からの評価と称賛。
そして継続することそのものが力を与えてくれます。
危機感に駆り立てられ、後先考えずに衝動的に始めるというのは、思慮深い自治体職員諸氏にはあまりお勧めできないことかもしれません。
しかし、この衝動こそが私の公務員としての殻を破る力を与えてくれました。
仕事を変える公務員の対話も、市民の行政運営リテラシー向上のための自己開示も、それが良い行いであれば必ず評価され、称賛されるはず。
それがわかっていて最初の一歩が踏み出せないのは、一歩踏み出す勇気を生む、現状に対する危機感と、それを歓迎し礼賛する市民の存在についての確証が足りないということかもしれません。
一歩踏み出してしまえばこちらの世界はとても居心地の良い自由な天地です。
まだその一歩を踏み出せない皆さんに、こっちの水が甘いことを地道にお伝えしていくことしか今はできていないのですが、公務員が一歩踏み出す動機付けについて、もう少し考えを深めてみたいと思います。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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