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ありたい姿から考える

新しい施設を整備したのは古い施設が老朽化したからだろ。なんで今更取り壊し反対運動が起こるんだ。
まさか施設が二つになるって思ってたのか?
#ジブリで学ぶ自治体財政

市民サービス提供のために先人たちが作り遺してくれたたくさんの公共施設。
それ自体は市民全体の財産で,それがあるおかげで私たちは豊かな市民生活を送ることができています。
しかし,施設で提供するサービスの水準を維持し安全に施設を管理していくために必要なコストが十分にかけられていないこと,また将来の大規模修繕や更新に要する費用が計画的に準備されていないことの問題を前回書きました。
では,その全容を明らかにし,将来にわたって公共施設を維持管理し更新していく計画を立案してみるとどういうことが起こるのか。
実は相当程度のコストを計画的にかけていかないとすべての施設を安全に適切に維持していくことは困難な状況だということがわかっています。

私は,地方自治体の財政を語るうえでよく,必ず支払わなければならない経費として人件費,扶助費,公債費の三つ以外に「第四の義務的経費」として公共施設の維持管理経費があると言っています。
公共施設の維持管理経費は,正しく言えば義務的経費ではなく,事業の内容ややり方を見直すことで圧縮を図ることができる裁量的経費です。
しかし,サービスを提供するために施設を作るという決断は重いものです。
施設を伴わないソフト施策の多くは予算を計上することで事業化され,予算の内容で事業自体をコントロールされていることが多いですが,施設の多くはその設置管理については条例で定め,議会の議決を経ています。
また,施設整備には多額の事業費を要するため,国からの補助金や公債(借金)を活用することが多いのですが,これは施設が長期間同じ目的で運営されることを前提としており,目的外への用途変更や廃止は事業開始から相当程度の期間認められません。
そして施設の多くはその立地場所の選定や用地買収,施設整備に合わせた周辺のまちづくりなどで施設周辺の地域との十分なコンセンサスを得てその場所に立地しており,施設が地域にとってなくてはならない存在になることも少なくありません。
公共施設はすべて、サービスを長期にわたって安定的に提供するためのものですから、同じサービスが永続的に提供できるよう設計され、整備され、運営されており、この安定という特性が財政上の制約を受けるときに大きな足かせになると前回書きましたが,公共施設によるサービスは,その場所で未来永劫住民と向きあい,サービスを提供し続けると手形を切っているようなものだという実感が,公共施設に関わるすべての関係者の認識なのではないでしょうか。

しかし公共施設が永続的なサービス提供を約束しているという認識とは裏腹に,日本はすでに人口減少社会に突入し,これまで必要とされてきたサービスの総量が確実に減り,そのコストを負担する市民の数も減ることが現実のものとなっています。
また,技術革新や人々の暮らしの質の変化,多様化も加速化し,既存のサービスが時代に合わなくなって陳腐化していくこともここ数年顕著です。
昨今のコロナ禍の中での新しい生活様式の普及などを見ていても,今後ますますこの変化の速度は増していくのだろうと推測されます。
この環境変化への対応にあたり,公共施設の持ち味であるサービスの安定性が逆に大きな障害となります。
公共施設はこれらの環境変化に十分対応できる柔軟性を持っておらず,ある日突然必要ないと言われてもやめることができない,内容が陳腐化してもサービスを柔軟に変更できない,それが公共施設の抱える最大の問題なのです。

将来にわたって公共施設で提供するサービスの水準を維持し安全に施設を管理してくために,必要なコストを総合的に把握し,計画的に維持修繕や更新を行っていきましょうと言っておきながら,その安定性の持続とは正反対の概念である環境変化に対応した柔軟性を公共施設に求めていくことは矛盾もありますが,実は公共施設問題の難しさの本質はここにあります。
福岡市はまだ人口が増加し学校などの施設が新たに必要とされる局面でもあり,人口減少に対応した施設総量の見直しをどう進めていくべきかという議論を具体的に行う必要がなかったことから,私自身,財政課時代にはこの問題を遠い将来の課題とは認識していましたが,その対処までは着手できませんでした。
しかし,全国の自治体を見渡せばこの問題は待ったなしですし,コロナ禍の中での税収減による財政危機の顕在化,あるいは新しい生活様式の普及等による,サービスの質の変化に伴い,公共施設によるサービス提供のあり方については,人口増加局面にある自治体であっても今後重要な課題となっていきます。

この難問,どうやって解けばいいのでしょうか。
少し前に「何を削るかではなく」で,事業見直しの重要な視点として「何をどう削るか」ではなく「何をどう残すか」を論じるべきと書きました。
「何を削るかではなく」

厳しい財政状況のなかで将来どのようなまちを残していきたいか。
必ず実現しなければいけないまちの将来像はどういうものか。
その実現こそが自治体運営の目的であり,事業の見直しはあくまでも手法です。
公共施設の見直しも然り。この将来像の共有を図るうえで,20年後,30年後のわがまちの人口や産業の状況を踏まえた公共サービス需要と,それを支える自治体財政の状況をきちんと把握し,財政課や公共施設担当課だけでなく,全庁,議会,市民も含めて共有する。
認めたくないでしょうがすでに起こってしまっている人口減少や社会環境変化を直視し,わがまちの縮小する未来に共通の理解を持ったうえで,その中で必要なもの,欠くべからざるものを真摯に議論していくしかないのだと思います。

私が出張財政出前講座で提供しているプログラム,自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATIONふくおか2030」は,そもそも熊本県庁職員有志が開発した職員研修向けのゲームですが,人口減少,少子高齢化,公共施設老朽化といった「すでに起こった未来」をゲームで体験することでその中で自治体運営を行っていくことの厳しさを体感するとともに,その未来を知ってしまった自分が,その未来において「ありたい姿」をどう描き,その将来像にどうやって到達するか考えるバックキャスティング思考を意識して行えるようにすると
いうのがこのゲームの開発意図でした。
以前,「縮小する未来」でも書きましたが,まさに今,このゲームの開発意図である「未来を知る」こととその厳しさの中で「ありたい姿から考え,それを実現する方策を考える」ことが求められているのだと思います。


このことをお伝えするためにも,コロナで自粛している“出張財政出前講座 with SIMULATION2030”を一日も早く再開したいですね。

★「自治体の“台所”事情 ~財政が厳しい”ってどういうこと?」をより多くの人に届け隊
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2018年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

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