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短歌作品

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主に「短歌人」誌に掲載された短歌作品です。
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2022年6月の記事一覧

「短歌人」2022年7月号掲載作品

「短歌人」2022年7月号掲載作品

表面張力

木蓮のあからさまなる咲きやうを受けとめきれてゐない青空

あたらしい靴がほしいと思ふのは何かをはじめたいときだらう

公園のシンボルツリーに会ひにゆく小さき散歩を晴れた朝には

クレヨンで描いた地図をあげるからわたしの町にあそびにおいで

図書館の裏手のカフェは音楽を流してをらず窓がまぶしい

シルバーのミルクピッチャー、砂糖壺。白い茶器には紅茶が澄んで

をはりゆく春の表面張力はアッ

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いつか、明るい

いつか、明るい

たくさんの「いいね」がついた投稿にゆびさきあててわたしも媚びる

さくらもちさくらもちつて買ひにゆく食べるためよりアップするため

白鳥が北へ帰つてゆくを撮るスマホかざして首をそらして

ほんたうの気持ちはどこにあるだらう仰いだ空を雲が流れる

感情もきれいになるといいのにと手を洗ふたび思ふこのごろ

雪の下よりあらはれて春あさき散歩の道にあまたのマスク

桃始めて笑ふの候にかくてがみインクのにじ

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「短歌人」2022年6月号掲載作品

「短歌人」2022年6月号掲載作品

〈春〉

思ひきりスパイスを入れカレー煮る喜怒哀楽の怒が足りなくて

春風の眷属として口笛に鳥のさへづり真似る少年

夜景には秘密がありて明かりにも影にも何か隠してをりぬ

鳥海の山影とほくみはるかす丘の上なる公園に立ち

あたたかな陽ざしにつつまれるやうに絵本作家と話すひととき

カウンターから受けとつて歩きだすハーブのお茶の紙のカップを

四月にも雪降る町に住み慣れて春への感受性はするどい

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