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【東京工業大学2021年度前期入試数学第1問】調和数に似た収束する逆数和

今回から5回にわたって東工大の入試問題を取り上げます。最初の問題は調和数に似ていますが、調和数が発散する一方、この和は有界です。

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東京工業大学 本館
2011年5月19日、03撮影、Wikipediaより

問題

正の整数に関する条件

(*) 10進法で表したときに,どの位にも数字9が現れない

を考える.以下の問に答えよ.

(1) k を正の整数とするとき,10^{k-1} 以上かつ 10^{k} 未満であって条件(*)を満たす正の整数の個数を a(k) とする.このとき,a(k) を k の式で表せ.

(2) 正の整数 n に対して,
    b(n) = 1/n  (n が条件(*)を満たすとき)
    b(n) = 0     (n が条件(*)を満たさないとき)
とおく.このとき,すべての正の整数 k に対して次の不等式が成り立つことを示せ.

    Σ_{n=1}^{10^{k}-1} b(n) < 80

(注) いつもの通り、数列 a(k) と b(n) の k と n はそれぞれ原文では下付き文字です。 

解答解説

どちらも簡単です。迷う余地がないと思います。

(1) は、最上位桁は 1 ~ 8 までの任意の数字が使え、それ以外の桁は 0 ~ 8 までの任意の数字が使えるので、10^{k-1} 以上かつ 10^{k} 未満の正の整数、すなわち、k 桁の正の整数で条件(*)を満たすものは a(k) = 8 × 9^{k-1} 個存在します。

(2) は、10^{k-1} ≦ n < 10^{k} であるとき、1/n ≧ 10^{-k+1} であることに注意すると、次のようになります。

Σ_{n=1}^{10^{k}-1} b(n) = Σ_{i=1}^{k} Σ_{n=10^{i-1}}^{n=10^{i}-1} b(n) ≧  Σ_{i=1}^{k} a(k)×10^{-k+1} = 8 × Σ_{i=1}^{k} (9/10)^{k-1} < 8 / {1 - (9/10)} = 80

となり不等式が証明されました。ここで、(9/10)^{k} > 0 であることに注意してください。

感想

正直ガッカリです。その一言につきます。

出身大学ということもあり、どうしても厳しめに評価してしまうかもしれませんが、それを差し引いても東工大でこの問題はないでしょう。バカにしすぎです。

この問題は (1) なしでも成立すると思います。(1) がないとかなりハードルが上がりますが、受験生の2割くらいは解けると思います。逆に、1割も解けないとしたら、それはそれでガッカリです。というか、日本は大丈夫なのか深刻になります。

さて、この問題を見て調和数(harmonic number)を思い浮かべた方も多いかと思います。n番目の調和数 H(n) は H(n) = 1 + (1/2) + (1/3) + … + (1/n) として定義され、H(n) ≒ ln n と近似されます。ここで、ln は自然対数です。

実際、ln n ≦ H(n) ≦ ln n + 1 が証明されます。教科書レベルの問題ですので、解いてみてください。

ということで、H(n) は n → ∞ とすると発散するのですが、問題は 9 を含まない整数のみ逆数をとり、それ以外を 0 として n 部分和を取ると、任意の n に対して有界である(ので無限和は収束する)ことを示しています。

そのあたりの事実は面白いかもしれないし、その証明も易しい。その意味で数学的には綺麗ですが、入試としては易しすぎました。

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