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第九夜

 テレビ画面に映った死亡の文字に愕然とした。ニュースは友人M君が交通事故で亡くなったことを告げた。一か月もしないうちに高校生になるというところで亡くなったので同級生やその親たちは騒然とした。運転手は飲酒運転だったそうだ。僕はテレビを見て、知り合いの名前がテレビに出ているのをこれまで見たことがなかったので、きっと別の人の名前だろうと信じなかった。信じていない割にちゃんと泣いているのがまたちゃんと嚙み合っていなくて変だった。

 亡くなったのが夜だったから、次の次の日に葬儀があって、行く気にはなれなかったが母親に説得されて無理やり行った。葬儀場に着くと黒服と制服の人がいっぱいいて、知る顔もちらほらいた。M君のお母さんがロビーで泣き崩れていて、お父さんはそれを支えていて、上の妹はうつむいて座っているのに、下の妹は小さすぎて何が起こっているのかわからないようでお母さんの周りをうろうろしていた。葬儀が始まって、お経が寝不足の頭に重く響くのを感じているとお焼香をお願いしますと言われて他の同級生の後に並んでお焼香をした。「何回やるんだっけ」という声が聞こえて、自分も考えていたが、とりあえず前の人に合わせようと決心したころには自分の番になっていて、M君のお母さんとお父さんに何か言われていた。自分も泣きながら何か言った。お焼香が終わって、その後も式はつつがなく進んでいた。

 最後に火葬場に行く車に家族がM君の遺体を運び入れるのを遠くから見ていると、制服のポケットにビー玉が入っているのを思い出した。取り出して、透明なビー玉越しにM君の死を見た。見ていられなくて口に含んだ。M君の死は無味無臭だった。ただいつまでも溶けることなく舌の上にあるだけだった。

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