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第六話

 エプロンを着たせんせいがいそいそと新聞やトイレットペーパーを持ち出して廊下に出ていく後ろ姿が見えた。子供ながらに興味がわいて、水色のクレヨンで雲を描くのをやめてせんせいのあとを追うことにした。廊下の角を曲がったところでせんせいの姿が見えた。せんせいは廊下の隅にいた男の子の前でしゃがんでなにかしているようだった。男の子はびくびくしていた。何をしているのか見ようにも回り込んだらせんせいに見つかってしまう。それだけはまずいので好奇心を抑えて廊下の曲がり角のところで体を隠して見ていた。暫く男の子を見ていると、せんせいが急に振り返って「なにしてるの」と強い調子で言った。自分はびっくりして、「いや、なんでも」と答えた。するとせんせいが近寄ってきて「年下の子を笑ってはいけないでしょ」と睨んだ。なんのことかと男の子の方を見ると、彼の前に水がこぼれていた。どうやらおもらししたようだ。「笑ってません」と何度も言ったのだが、「笑った」とせんせいは言い張った。笑っていないので暫く黙っていると「そんな子だとは思わなかった」とせんせいが泣き出した。仕方なく僕は「ごめんなさい」と呟いた。せんせいは黙って床を拭き始めた。僕は教室に戻って、黒のクレヨンを取り出して自分の顔を塗りつぶすことにした。顔が真っ黒になって、目も鼻も口も無くなった。これでせんせいへの報復とした。

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