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おんなのひと 四

 毎日、同じ時間に起きること、そのために同じ時間に寝なければならないこと、そういうのは慣れていくようでだんだん辛くなる気がします。いつも、なんだかいろんなことがおかしいと思いながら、でも何がどうおかしいかよくわからないので、とにかく歩いたり、謝ったりしています。

 ある日、買い物に行くと、れもんが売っていました。いつも売っているのでしょうが、いつも通り過ぎていたのに、その日はたまたま目に入りました。買う理由もないのに、私はそれに引き寄せられて、れもんを手に取りました。それは固くて、しっかりしていて、いい匂いがしました。帰り道も、れもんを袋の中に入れているというのが新鮮な気分でした。切ってみると、れもんは目が覚めるほど黄色で、その色は水彩絵の具を水に垂らしたみたいに広がっていきました。れもんの黄色が広がった、というよりも、そのはっきりした色合いが、例えば白いまな板とか、銀色の台所とか、そういうものの色がちゃんとあったんだって教えてくれたんです。なんだかそれが、正しい位置を教えてくれたような気がして、ほっとしました。

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