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テイクアウト営業になって気がついたこと

緊急事態宣言を受け、テイクアウトのみという営業形態になって一週間。この間、いろいろ考えたことをまとめてみました。

1.テイクアウトを始めるまで

3月下旬。緊急事態宣言が出され、いよいよ通常の営業形態では難しくなるなという予想から、ウチもテイクアウトを始めようかと考えて始めた。

しかし、テイクアウトについては、以前ケーキ類を販売しようとして保健所からNGを出された経験がある。
保健所が言うには、「飲食店」として営業許可を得ている店舗では、飲食物は店内消費が原則であり、ケーキ類を販売するには「菓子製造業」の許可が必要。そのためには、飲食店とは別の厨房設備を作って許可申請しなければならないという。
店内でお客様にお出ししている自家製ケーキ類を,「持ち帰りたいから」という要望に応じて販売するのは「ギリギリOK」という見解だった。

なので今回、ランチとして提供しているメニューをテイクアウト販売するのはどうなのか?
一応管轄保健所に確認しようと思い、電話ではこの非常時に申し訳ないので、とりあえずメールしてみた。
すると意外にも翌朝担当者から直接電話をいただき、丁寧に回答したいただけた。それによると…

飲食店として営業許可を取得している店であれば、通常店で出している料理を「客の注文に応じて調理」したものを「客の要請によって持ち帰ってもらう」のはOKです。
あらかじめ調理して詰め合わせた弁当のようなものを販売するのはNGです。

とのこと。
そこで、次期店長とも相談して、ウチの主力メニューであるガレット類とカレー、ドリンク類をテイクアウト販売できるように、容器などの資材調達を始めた。

2.テイクアウトを始めてみて

電話でご注文いただいたり、直接ご来店で出来上がるまでお待ちいただいたり。数は多くはないけれど、お客様にいらしていただけることは本当にありがたい。

しかし。
いつもお出ししているメニューと同じものを、同じお値段でお持ち帰りいただいているのだが、お渡しするたびにどこか「申し訳ない」気持ちになってしまう。

いつもは陶芸家のいとこが焼いたお皿で出しているガレット。テイクアウトにするためあれこれ資材を検討して、ピザ屋みたいな箱を調達したり、カトラリーも必要だからと使い捨てのあれこれを購入したり。

ウチは基本的にテイクアウトをやっていなかったので、ドリンク用の資材もゼロからすべて揃えなくてはならなかった。
普段、サスティナブルな社会を目指そう、余計な使い捨てを止めようと、レジ袋さえ辞退しているのに、この大量の資材はすべて廃棄物と思うとタメイキが出てしまう。

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容器はすべて使い捨てなので原価をもろに圧迫してくるのだが、もとのメニューのお値段以上にはいただけない。

しかも、やっぱり焼きたてが一番おいしいガレット。再加熱しておいしく食べてもらうには、どうしたらいいのか。
カレーの容器はレンチンに耐えられるものの方がいいけど、さてピクルスはどこに入れようか。
いろいろ考え、ご自宅でおいしく食べてもらえるように最善を尽くしてはみるものの、やはり出来たてを食べてもらうのに敵うものはない。そんなわけで、お渡しするときには「申し訳ない」気持ちになってしまうのだ…

そう思っていた。
ところが、この「申し訳ない」気持ちは、料理を最善の状態で食べてもらうことができないからだけではない、ということに最近気がついた。

⒊テイクアウトで決定的に欠けるもの

通常、お客様を迎えるときのことを想像してみる。入ってきたお客様に、「お好きなお席でどうぞ」などとお席をご案内する。

ウチは砂利道をガタガタ100mくらい走って来ないとたどり着けない山の中。古民家リノベなので、店内の空間は広々していて開放感がある。
置き囲炉裏を囲む席や、畳敷きの小上がりにちゃぶ台の席がある。寒い季節ならコタツ席が人気だ。
リピーターさんには、だいたいお気に入りの席がある。いつもちゃぶ台に向かってPCを開く人。カウンターの隅っこが好きな人。囲炉裏の向こう側に座って、火を見ている人。
初めてのお客さんなら、ファミリーかカップルか、お一人の方かなどにより過ごしやすそうなお席をご案内する。

ご注文をいただき、お料理やお飲み物を運び、場合によってはちょっとした会話が生まれることもある。

-いい季節になりましたね。
-緑がきれいですよねー!私は今の季節が一番好きなんです。

-今年は、雪はどうでしたか?
-いやー、全然降らなくて。

-このカップ、素敵ですね。
-いとこが陶芸家なんです。あちらに展示してるのも、よかったらご覧くださいね。

お話し好きな方もいれば、静かに本を読みにくる方もいる。ウチの女将猫に会いにくる方もいる(ウチの猫は、気が向けばちゃんとご接待する)。BGM は流していないけど、今ならウグイスの声が外から入ってくる。雨の日は屋根に雨粒が当たる音がするし、古いカチカチ時計もときを刻んでいる。

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そんな風に流れる時間や空間が、テイクアウトには一切ない。だから、お渡しするとき「申し訳ない」と感じてしまうのだ。

おいしい料理や飲み物も大事だけど、それはカフェで過ごす時間を構成する一つの要素でしかない。
カフェの時間。カフェの空間。
それは「プライスレス」で原価には含まれない価値だけど、それがなければ人はカフェに来ない。

4.アフターコロナに向けて

考えてみれば、店内メニューをお持ち帰りできるように整えたところで、もともとテイクアウト前提でメニュー構成している店舗にかなうはずがない。

そうではなくて、ここでしか体験できない時間と空間を、用意する努力を続けること。
来店する一人一人のお客様が、ここで過ごす時間を最高のものにしていくこと。

それは、居心地の良い席であったり、お掃除の行き届いた店内であったり、季節の花を活けたしつらいであったり…
ネコが丸くなっている縁側であったり、コーヒーを淹れる香りであったり、温もりを感じる食器であったり…

それぞれのお客様に、いちばん心地よいと感じられる応対をすること。くつろいでもらえるように、笑顔でお話しすること。一皿の料理に「これ、おいしいのよ。楽しんでね」と思いを込めてお出しすること。
できることはたくさんある。

そして、もうひとつ大事なこと。
カフェの空間・カフェの時間を成り立たせているのはお客様だということ。ある意味、カフェ業務はお客様にこの店を五感で味わっていただくパフォーミング・アートかもしれない。

そろそろ結論を-

テイクアウト営業になって、

カフェとは、食べたり飲んだりするモノを売る商売ではなかったことに気がついた(はっきり意識することができた)。

カフェとは、お客様に五感で味わっていただくパフォーミング・アートだった。
だから、
お客様に「この店に来てよかった」と感じてもらえるために、あらゆる努力をしていきたい。

アフターコロナが楽しみだ!

こんな単純な結論のために長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。



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