夢をかなえるスマートフォン㉓5時限目の2〜挫折と迷走

帰りの電車の中で、悶々と考えていたが落ち着かず、駅に着いた途端、思わずゆきに電話した。
「もしもし」
ゆきの声だ。
「久しぶり、今話してもいい?」
「あ、ゴメンね。今、彼氏と一緒なんだ。実はさ、俊くんなんだ。言ってなくて、ごめんね。また今度電話して。」
切れる直前、電話の向こう側に俊の声がした。
力がドッと抜けた気がした。その場にへたり込みたかった。とにかく、家に帰ろう。
足早に人混みを駆け抜け、家の玄関に駆け込んだ。
布団にもぐったら、涙がでてきた。
「私、頑張ってるのに!頑張ってない人もいっぱいいるのに!
なんで、私だけがこんな目に遭わないといけないの!ずるいよ。不公平だよ。」
無性に腹がたった。
思えば、このころの華苗は、忙しさにかまけて、毎日本を読むことを続けられなくなっていた。
服や靴も買いに行く時間もない。
時給をあげるどころか、とんでもないヘマをしてしまった。
目標を立てたのはいいものの、こんな調子では目標実現にはほど遠く、だんだんと自分が何をやっているのか、わからなくなってきた。

ひとしきり泣いた後、いつもの習慣でスマートフォンを握っていた。
たまたま開いた画面に大学の友達のゆりあが雑誌の読者モデルを始めたと書いていた。
「へぇ~、読者モデル、やってるんだ。」
友達の明るい話題に少し心がほころんだ。
するとメッセージが届いた。大学のみのりからだった。
みのりも丁度ゆりあの近況を知ったところだったらしい。メッセージの内容を読んで驚いた。自分たちも一緒に読者モデルに応募しようというのだ。
考えてみたこともなかった。考えたこともなかったが、何か心がワクワクするのを感じた。どうせ、今何をやっても、良い結果にならないし、誘われたのも何かのチャンスかもしれない。みのりにノセられたつもりで、応募してみようかな。
華苗は乗り気じゃなさそうにしながら、OKの返信をした。
そして、1人じゃ心細いので、やっぱり早苗も引っ張り込んだ。早苗に無断で一緒に応募することにした。
「早苗は人目を引くし、双子モデルってのもいいかも」
その時は大して深く考えないでいた。

与志宮との約束の日、その日は曇り空で、差し込む光も少なく、南青山骨董通りも、少し暗い印象だった。華苗は最近、アルバイト先でも人間関係に悩んでいた。それが理由で、目標に向けて頑張れていない気がするのだ。
いつものようにCafeブルーマウンテンに行くと、いつもの席にパソコンに向かって座っている与志宮がいた。

「やぁ、調子はどうだい?」
やっと話を聞いてくれる相手をみつけたような気がして、ホッとした。
「いろいろあって、目標どころじゃなくなっている気がするんです。
アルバイト先では、何人も一度にやめられちゃったので、そのしわ寄せが来てしまって、その分大学の方も大変になってきたし、友達に誘われて、読者モデルに応募したので、その関係でちょっと買い物が多くなったりして、やっぱり時間が足りなくなって、忙しくて忙しくて、どうにもできなくなっちゃったんです。」
華苗は自分の中に貯まっていた不満を吐き出そうと、あれもこれもとしゃべりまくった気がする。与志宮は黙ってずっと聞いていたが、華苗のおしゃべりがストップすると、足を組み直して、静かにマグカップを置いた。
「だから?」
うわぁ、華苗は身を縮ませた。与志宮の声はそれほど冷たかったのである。目も笑ってはいなかった。
「だから、どうしたっていうのかな?」
淡々とした口調が反対に怖い。
「あの、やっぱり、私、ツイてないなぁ~」
与志宮の様子を伺いながら言ったつもりだったが、この言葉がげきりんにふれてしまったようだ。
「ツイてないな~って、どれもこれも君が招いた状況だよね?」
アルバイトが辞めた?なんで、君がその代わりをしなきゃいけないの?
断ればいい話だ。そこを断れないなら、目標を立てた意味がないよ。
もちろん、突然増えたアルバイトでも、それが目標につながることならかまわないよ。だけど、そうじゃない。君はふりまわされているだけだ。
全然目標に集中していないよね?
アルバイトはともかく、読者モデルってどういうこと??どこからでてきたわけ?
なんで、そんなものに応募して、余計な時間つかってるの?それで大学の勉強が出来ない??
「君は一体今まで何を勉強してきたんだ!」
「ひえ~っ」

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