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バスと老婆

バス停でバスを待つ。
日常のよくある風景だ。

バスを待つ間は歩道に咲く花を眺めてやさしい気持ちになれたりする。
排気ガスの中で暑さや寒さにも文句を言わずじっと佇む木々は、ちょっと風が吹いただけでも鬱陶しく感じてしまう自分に「謙虚にならなくては」と殊勝な気持ちにさせてくれたりもする。

そんな風に思いを巡らせていると、今まで車が作っていた音とは明らかに異なる重厚感のある音が近づいてきた。
視線を車道に向けるとお目当てのバスがすぐそこまで来ている。
慌ててかばんをまさぐり、電子カードを準備する。
透明のパスケースと伸縮性のあるコイルコードキーホルダーをつなげた、100円均一アイテム2つで出来るお手製の電子カードホルダーだ。
これだとかばんの持ち手に繋げたままで支払いができるので紛失の心配もなく、必要な時にサッと出せるのでとても重宝している。

ベンチに座っていた80代半ばくらいかとお見受けする女性もバスの到着に気付き、ゆっくりと一段ずつステップを上がりながら乗り込んでいく。
いつもよりも何かあればすぐに手を貸す心の準備は万全だ。
なぜなら私は殊勝モードになっている。
注意深く女性を見守りつつプレッシャーにならないよう少し間隔を開けて自分もステップを上がっていく。

車内をサッと見渡して空席を探す。
これからの40分ほどの道のりを考えると是非とも座っておきたい。
ちょうど二席空席があった。ほっとして席に向かおうとしたのも束の間、老婆がその席によっこらせと座ってしまった。
一瞬かたまる。
なぜならあとの残りの席は優先席だったのだ。
車内を見渡した時、老婆は優先席に座るだろうと思い込み、自分も席にありつけると自動的に計算していたのだ。

仕方なくせめてもと夕日を避けた位置に移動しつり革を握る。
さっきまでの殊勝な気持ちのままでいたいが婆さんへの憤りが沸々とわいてくる。
その憤りは肉体にも影響を及ぼし、5分立っていただけで心なしか足が痛くなってきた。
腰にも違和感が出てきた。
そう思うとなんだかどんどん痛くなってきた気がする。
この痛みの度合いは優先席に座る資格を得られるだけのものであろうか。

痛みを三文芝居でアピールしながら優先席に座る格好悪い人間にはなりたくない。

そのプライドを胸に、いつまでも埋まらない優先席を横目で見ながら渋滞に巻き込まれたバスで立ち続けた。







サポートしていただけるなんて夢のまた夢、、。 でも桃鉄では「夢のまた夢カード」でいいことが起こったことがあったような気が、、、。 夢のまた夢を目指してゆめの夢子は頑張ります。