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包丁で指を切っただけの話。

※痛い話では無く、面白い話です※

「あ、切ってもうた」
そう思った0.2秒後、私は能天気に考えていたことを後悔した。


"包丁で指切ったことないから、切ってみたい"

そう思いながらいつも料理をしていた。
まぁ、普通の人はそんな事考えないだろう。

"失敗して上手くなるの"
そう言われて育ったおかげで、失敗したいと思っていた。もう一度言う。普通の人はそんな事考えない。

お野菜をトントン、お肉をトントン。
そして、意味のわからないタイミングで

グサッ

漫画なら大きな文字で

グサッ

って感じで人差し指を切った。


「あ、切ってもうた」←好奇心でテンション高め
と思った0.2秒後、溢れんばかりの血と、意味わからんぐらいの激痛がした。

結論から言う。人差し指だけで4針も縫った。



違う。そんな事は正直どうでもいい。


当時の私は、ど田舎の会社の綺麗な寮に住んでいた。
インフルエンザが流行る2月の休日だった。

溢れんばかりの血が流れて、必死に右手で握っても止まらない。
戸惑った私が行動したのは、母へ電話だった。

「指切ってんけど!血、止まれへんねんけど!めっちゃ痛いねんけど!どうしよう!」

「かけてくる所違う!病院行きなさい!あぁ、運転出来やんのか!救急車呼びなさい!恥ずかしいけど!」

「・・・え、絶対に嫌」

そこは冷静になった。何故ならど田舎だから救急車が来たら大騒ぎだからだ。

頑張れと応援されただけの母の電話を切り、考えた。
どうしよう。
痛い。
どうしよう。
会社の先輩は今日仕事やからだめ。

他の子のシフトが分からへん。
手当たり次第に連絡しようか?
元カレに連絡するのが手っ取り早いけど、頼りたくない。
どうしよう。


そう思っていた5秒後、隣の部屋(戦友)が休日だった事を思い出した。

すぐ電話をかける。第一発声はこうだ。


「死ぬ!!!たすけて!」

「は?何かあった?」

経緯を説明して、本当に止まらないと泣きじゃくる(実際は泣いていない)

「血が止まらへんねん!やばいほんまに!私の車使って良いから!頼むから病院に連れて行ってくれ!」

「いや私、免許持ってはいるけど、取ってから1回も乗った事ないし、夜やし、雨降ってるし無理やわ」

「私を殺さないでくれええええ」

「他を当たってくれ」

「ほんまに、、もう、死、、ぬ。ふふふ」

「元気かよ」

「いや、ほんまに痛いねんて。リアルに血が止まらないからさ、ほんまにさ、ほんま無理。
あの、私が道も案内するし、アクセルの踏み方とかワイパーの出し方とか教えるから!」

「出血死で死ぬ前に、交通事故で死ぬかも知れへんけど良いの?」

それは流石に嫌だったが、

「良い!交通事故ごときで死なないから!」



その1分後に私は隣の部屋に行って、助けてくれと泣き寝入り。
「分かったけど、ほんまに事故るよ?元カレ呼びなよ」
と念押しをされたが、嫌と即答し、病院へ向かった。


勿論、アクセルとブレーキを間違えるし、
暗いなぁと思ってたらライト付いてないし、
駐車なんて、救急の時間帯で良かったと思えるほどだった。

私なら10分程で着く病院を、戦友は安全に安全を重ねて25分程かけて着いた。
指の痛さは軽減されてきた。



「包丁で指切りました」

そう伝えたのにも関わらず、体温が高かったのか
「ではまず、インフルエンザかも知れないので、そちらから」

「いやいやいやいや。もうほんと、出血多量で死にますけど」

「安心してください。そんな事で死にませんから」

にこやかな笑顔の女性にそう言われた。
うそだろ、まず診てくれよ。そう思ったが、確かに高熱だったので、萎縮。


いろいろ検査して1時間後くらいに、ようやく
「あ、ひどい状態ですね〜。ぱっくりですね!ぱっくり!痛そう!縫いますか!」
と、若い男性に明るく言われた。
病院の先生って、こんなに軽かったか?
そう思ったけれど、縫うほどなのか?と思っていた。

私は生まれてこの方縫ったことがない。
全く知識がない。

「ちなみに、指先は神経が強いので、麻酔を4本打ち、その後に縫います。
縫うところ、見てても良いですよ」

縫う。

縫う?

つまり、針か。見るわけがない。怖いからでは無い。

私は、先端恐怖症である。


正直に言う。

包丁で指を切ったことよりも、麻酔を打つ方が辛かった。しかも4本では無く、
「失敗したんで、もう1本打ちますね〜」
そう明るく言われた。
もう、ツッコむ気力も無く、意識が朦朧としていて、どうでも良かった。

それでもえらい時間かかるなぁ、そう思っていたが、手術後に言われた一言は

「すみません。僕、実は、あまり縫う経験が無くて下手くそでした。
多分2針で良いところ、下手なんで4針になりました」

と言われた。

嘘だろと、何してくれてるんだと、言いたかったが、
早く解放して欲しかったおかげで

「治れば何だって良いです」と言った記憶がある。



結果、何が言いたいかと言うと
あれから3年は経つ今、思うことがある。

見た目では縫い後が若干分かるが、
それより
未だに、人差し指の感覚がちょっとおかしい。


担当医によると、
「下手な縫い方したら、治るものも治らない」
らしく、
私の人差し指の感覚は、きっともう治らないだろうと思っている。


みなさんも上手な先生に縫ってもらいましょう。
そうです。注意喚起がしたかっただけです。





チョコレートに牛乳


ちなみに帰りの運転は、
運転の下手くそさを意識して見れたので、行きよりも恐怖が増し、
寒いはずなのに冷や汗が止まらず
「よくこんな下手くそな運転で、事故らなかったよな」と言ってしまった。

でも、心から感謝している。ありがとう。
この事は死ぬ瞬間でも笑い話で話せる自信があるけど、貴女が居たから本当に助かった。



もし子供が出来たら、
「包丁で指を切ることも経験だけど、軽めにしなさい」
と言う。
さすがに4針はない。
だって、こんなに薬飲まされたんだから。

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