我が青春の銀幕世界、映画が国民的娯楽だったころ


下北沢に通い詰めの映画少年

下北沢に久しぶりに行った。昔通った映画館はとうになくなっていたが、街の“らしさ”はまだまだここかしこに息づいていて嬉しくなった。
下北沢映画館、グリーン座、オデオン座のことだが、中学から高校生のころ毎週かよったものだった。
自分史の中でも一番多感な時期で、今でも映画館の名前を思い返すと胸がジーンとなる。
どれもいわゆるロードショー映画館ではなく、公開終了後しばらく経った人気作を1日に3本を繰り返し上映するというシステムだった。どうしても繰り返し観たい映画があると、指定席ではないので朝から一日中居ずっぱりになることも。
また週によっては、映画館のハシゴなんてこともしばしば。
今思うとなんともあきれた情熱ぶりである。
それほど思春期の私にとって、スクリーンのスター達が繰り広げる世界がまぶしく、胸躍らせるシーンの連続ですっかり虜になっていた。

渋谷は映画の街だった

同じころ自分が住んでいた渋谷には、渋谷東急文化会館があった。パンテオン、渋谷東急、東急名画座、地下にはなんとニュース専門の映画館という4館が入っている今で言うシネコンのはしりみたいなものだ。ただしその一つ一つがワンフロアを占めている上に、パンテオンに至っては70ミリ・シネラマ方式といって幅が30メートルもある半円状の巨大スクリーンの劇場なのだ。今の若い人には想像もできないでしょう。ゴージャスで華やかなりし映画文化の全盛期の象徴でした。

フランス映画でなきゃ映画にあらず

当時はフランス映画の最盛期だったように記憶している。
もちろんハリウッド映画はあったけど自分の中では、勧善懲悪の単純なストーリーばかりで、さほど興味がもてなかった。
その点なんともムーディーかつアンニュイな趣きのフランス映画にどっぷりハマってしまった。

そのころよく観たフランス映画は、フィルムノアールと言われる犯罪系サスペンスとアクションで暗いトーンのものだ。
アランドロンの主役がいちばん多かった。白いワイシャツのノータイに黒いズボン、そして袖をまくっただけのなんでもないコーディネートでのアクション。めちゃくちゃかっこよくて、その袖のまくり方をよく真似していた。

アラン•ドロン彼を超える美男子は未だ知らない                                      



同時期に観た「幸福」というパステル調の色彩感溢れる映像の、物悲しいフランス映画を今でも思い出す。 
愛し合っている妻以外の女性に恋してしまい、何気なくそのことを妻に告白する。そして理解してほしいなどとなんとも身勝手な話を、妻は動揺する様子も見せず微笑んで聞いている。ところがある日湖に身投げした妻を見つけてしまう…

 こんな風に「男女とは」をまなぶ格好の教材もスクリーンにはふんだんにあって、少しませた私が通う理由だったのかもしれない。

ニュース専門の映画館て知ってます?

ビートルズのヘルプはロードショー封切りからだいぶ経って、最上階にあった東急名画座で観た。
スクリーンがステージの奥に設営されていて、ステージに上がり込んだ観客が、まるでアラーの神を拝むような格好で泣き叫ぶさまに度肝を抜かれた。

このビルにはニュースだけの映画館が(東急文化会館地下)にあったことは触れたが、テレビが普及していないため、ロードショウでも本編の前にニュースが必ずセットでついていた。
ヤフー検索で瞬時に世界の様子を知ることのできる現代では想像しづらいだろうけど、大画面で繰り広げられる世相の動きを食い入るように眺めたものである。

一階の70ミリシネラマのパンテオンでは「天地創造」と「サウンドオブミュージック」、渋谷東急ではヘップバーンの「戦争と平和」がすぐ浮かぶ。

とりわけお気に入りは、「シンドバッドの冒険」シリーズと「ミクロの決死圏」、「恐竜100万年」で、特撮の凄さに感動。CG以前には、アニメの手法であるひとコマ撮影で作る怪獣映画は、新聞の隅に掲載される当日の上映案内欄で逃さずチェックしたものである。

他に印象的なのは、「冒険者たち」「男と女」「スティング」「ひまわり」「俺たちに明日はない」「カトマンズの男」「ラスベガス万歳」。
そして極めつけは「太陽がいっぱい」。アランドロンの出世作で、物悲しい哀愁のテーマング、そして多くを語らないラストシーンの見事さが光っていた。

デートといえば映画が定番の時代

高校生のとき、友達から初デートに何を見たらいいか相談され、内容を知らずにアランドロンのチケットを取ってあげたら、ベッドシーンタップリだっらしい。のちに気まずくて仕方なかったとぼやかれた。別に意図したわけじゃなかったけど、2人が成就しなかったのがそのせいだったら謝らなきゃかも。

自分の最初のデートもやっぱり映画だった。ディズニーランドがない頃で、デートといえば映画。ある時学校一のアイドルを誘うことに成功、なぜか「インドへの道」という、超地味で全然内容もわからない難解な映画を選んだのは大失敗。帰りに入った中華料理店では、餃子の汁を思い切り相手の高そうな服に吹きかけて本気で怒られた二重にドジな思い出がよみがえる。


昨今の映画はそのCG技術の驚異的発達で、あらゆる空想をすべて映像で実現してしまえる程のクオリティだ。昔のそれとは比較すべくもないが、胸のときめき具合は、あの頃に叶わない気がする。
そして良くも悪くも青春の日々はいつだって、スクリーンとは切り離せない。

「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」というタイトルのエッセイ集があるが、私にとって「人生に必要な知恵はすべて映画館で学んだ」という気がしている。



この記事が参加している募集

#映画館の思い出

2,632件

#映画感想文

67,587件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?