シンガーソングライター・早見沙織の誕生~「JUNCTION」に見るアーティスト性~

※2018年12月24日のブログ記事より。

“声優アーティスト”なんて言葉を使うことがあるけれど、早見沙織さんはもう“アーティスト”だ。
「JUNCTION」を聴いた瞬間、強く思った。

2018年12月19日に発売された、待望の2ndアルバム「JUNCTION」。
全14曲中、なんと本人が作詞・作曲を手掛けた楽曲が10曲も収録されていて、もちろんその時点で立派な“シンガーソングライター”な訳だけれど……。

ここでは「JUNCTION」の中で感じられる早見さんのアーティスト性を、いくつか取り上げたい。

「JUNCTION」に見るアーティスト性①: テーマ性がある

Tr.1「Let me hear」、Tr.2「メトロナイト」…と順番に聴いてみると、気づくことがある。
レコードのノイズから始まる「Let me hear」に象徴されるように、ちょっと懐かしい、“1980’sサウンド”が基調になっているのだ。

そもそも声優さんのアルバムで、音楽面で1つのテーマを設けること自体、とても珍しい。
というのも、声優さんの1番の魅力は“演技力”。
その演技力を活かすために、アルバムではあまりテーマを絞らず、幅広い曲調に挑戦することが多いのだ。
(※だから、声優さんのアルバム名は「○○ BOX」とか「Colorful ○○」とか、多様性を表すものが多い。)

逆に言うと、早見さんが“1980’sサウンド”という音楽面でのテーマを設けたということは、声優としての武器である演技力を一旦忘れて、アーティストとしての歌唱力1本で勝負を仕掛けているということになる。
「アーティストとして闘っていける」という、早見さんの覚悟と自信の表れなのだ。

さらに“1980’sサウンド”をテーマとすることで、映画「はいからさんが通る」主題歌のTr.4「夢の果てまで」が自然と馴染む。
早見さんの手がけた曲と比べて、竹内まりやさんの手がけた「夢の果てまで」は、昭和の日本を思い起こさせる和風な曲調。
下手な曲順でアルバムに入れてしまうと「夢の果てまで」は浮きかねない。
だが早見さんが手掛けた楽曲を、1980’sに流行したシティポップに寄せることで、“どこか懐かしい”という共通項を設けているのだ。
4曲目までの流れは、何度聴いても唸らされる。

「JUNCTION」に見るアーティスト性②: バックバンドへのこだわり
バックバンドへのこだわりがすごい。

楽器演奏ならではの“ズレ”を、随所で生かしている。

これは「JUNCTION」に始まったことではないものの、やはり矢吹香那さんを初めとしたスマイルカンパニー所属の作家さんと長年制作を共にしてきたことで、より精度を増してきているように思う。
そもそも声を職業とする声優さんのアルバムで、Tr.7「interlude: forgiveness」のような歌無しの楽曲を入れている時点で驚きだ。

何より、アルバムを通して打ち込みが少ない。
ほとんどが楽器のスタジオ録音で仕上げられていて、Tr.10の「little forest」なんかはサックスまで取り入れている。
アキバ総研のインタビューによると、矢吹香那さんの演奏とのこと。
一部のシンセサイザーも演奏可能なレベルで、まるで全曲について生演奏でのライブを意識しているようだ。

最近の楽曲は、mp3(圧縮音源)で聴かれることを前提に、あえて打ち込みをメインに据えることが多い。
歌声も、リズム・ピッチをがっつり修正している。

だが「JUNCTION」では、生演奏ならでのリズム・ピッチのズレが、いわゆるグルーブを生み出している。
そして早見さんも抜群の音感で、わざと半音ずらしてメロディーラインを歌ったりしている。
最早、完全に“アーティスト”のやり口だ。

「JUNCTION」に見るアーティスト性③: 垣間見られる遊び心

遊び心というか、作詞・作曲家としてのエゴというか。
プロの作詞・作曲家が手を加えると、どうしても「無難に売れそうな曲」が生まれがちだが、今回早見さんは「無難」の殻をぶち壊しに来ている。

特に感じるのは、Tr.3「夏目と寂寥」サビ終わりの「ドレミファソラシド」のフレーズ。
そこまでのサビはマイナー調にもかかわらず、ここで急にメジャー調に転調する。
しかも「ドレミファソラシド」の音にちょうど沿っているという、遊び心。

ダ・ヴィンチニュースのインタビューでは「偶然」見つけたと話しているが、その「偶然」を音楽に取り入れるセンス。
脱帽するしかない。

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シンガーソングライター・早見沙織。
「JUNCTION」を通って、次はどんな道へ向かうのだろうか。
楽しみで仕方がない。

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