人類はもっと、早見沙織さんを聴くべきだ ~名曲揃いのカップリング特集~

※2018年9月19日のブログ記事より。

早見さんが、“人気声優の1人”として位置付けられてしまっていることがすごく悔しい。

彼女の伸びやかで透き通った歌声は、声優の域をとうに越えている。
別に、声優を馬鹿にしている訳ではないし、早見さんの声優としてのキャリアを否定している訳ではない。

ただどうしても、声優の楽曲を聴きこむ人は声優オタクに限定されがちだ。
(かくいう夢子も、早見さんへの入口は声優オタクとしてだったけれど…。)
アニメ・ゲームの作品オタクはどうしてもタイアップ次第だし、音楽オタクはハナから「たかが声優」などといって取りいってくれない。
それが物凄く、悔しい。

はっきり言っちゃうと。
早見さんは、そこら辺の歌手なんかよりもズバ抜けて歌がウマい
そして作曲家・編曲家を初めとしたクリエイターたちも、早見さんの歌唱力を信頼して伸び伸びと楽曲を仕上げるから、出す作品出す作品すべてが名作なのだ。

1. 『メトロナイト』(ニューシングル『新しい朝』より)

早見さんのシングル・アルバムの良いところは、カップリングが名曲揃いなところだ。

表題曲はタイアップが付いていることも多く、アニメ・ゲーム作品に向き合った楽曲がほとんど。
一方でカップリングは“音楽”に向き合っている印象で、早見さんの良さが十二分に発揮されている。

例えば、ニューシングル『新しい朝』の2曲目に入っている、『メトロナイト』。
作詞・作曲は早見さん本人が、編曲はスマイルカンパニー所属の倉内達矢さんが担当している。


この編曲が素晴らしい。
シンセサイザーやギターの音作り(※1)を初め、ちょっと昭和を感じるダンサブルなシティポップ。
早見さんの風に揺れるような声が、絶妙にマッチする。

コーラスの入れ方(※2)や、ラスサビでのわざとっぽい転調(※3)も、あえて狙っているのだろう。
今若手のバンドがこぞってリリースし、リバイバルブームを起こしている“懐メロ”サウンドだ。
ボーカルのリバーブを浅めにして、今感を残しているバランス感もポイント。
もしコンビニとかで流れていても、確実に声優の楽曲とは気づかないほどの、クオリティーの高い作品だ。

※1:ワブルベースを初めとしたブイブイ系のEDMブームは一旦落ち着き、シンプルなシンセ音がリバイバル中。

※2:2000年代以降、ピッチシフト機能を使ってボーカルラインからコーラスを抽出・作成することが主流だった。ボーカロイド・歌い手界隈から派生したトレンドだと思うが、金銭的にも時間的にもコストを抑えられるためか、プロの作成する楽曲でも多用されている。どこか機械的な、ペタッとしたコーラスが特徴。一方で昭和の時代は、今ほどピッチシフト機能も進化していなかったため、コーラスは別録りが基本だった。『メトロナイト』では、編曲家の倉内達矢さんの歌声…かは不明だが、男性のコーラスラインを別録りしている。ボーカルラインと微妙にずれたピッチ感やリズムが、サビでの昭和サウンドに味を加えている。

※3:ニコニコ動画等のインターネットサービスの普及に伴い、数分間飽きられずに視聴してもらうための“展開の早い楽曲”が一時期から大量発生。ネット上のブームがテレビアニメ主題歌にも影響を与え、『太陽曰く燃えよカオス』や『ようこそジャパリパークへ』が生まれた。こういった展開の早い楽曲は転調の前触れなく転調するが、一方で古き良きJ-POPは「転調するよー!転調するよー!」と臭わせてから転調するのが特徴。『メトロナイト』の「もっと、もっと」と2回繰り返しちゃう転調、しばらく耳にしていなかったのもあって、狂おしいほど愛おしい。なお転調後のキーは早見さんの声域の限界を攻めているが、これも編曲家他クリエイター陣が早見さんの歌唱力を信頼している証拠。

2. 『琥珀糖』(4thシングル『Jewelry』より)

同じく早見さんが作詞作曲に挑戦した、カードキャプターさくらクリアカード編』エンディング・テーマの『Jewelry』。
こちらのカップリングの『琥珀糖』も素晴らしい。

まず作曲の観点からいくと、早見さんは自身の魅力をよく理解しているなぁと…。
サビの「もう戻らない」でキチッと使ってくる、特技の裏声。
その直後の「明日は来る」での、大胆な音の移動。
ダ・ヴィンチニュースのインタビューでも話している通り、「コテコテ」な“早見サウンド”だ。

またこの早見サウンドを最大限に活かしているのが、矢吹香那さんがアレンジしたというコード進行。
おそらくだけれど、早見さん自身で作ったコード進行はもっとマイナー調に寄っていたはず。
マイナー調が過度に古臭くならないように、オシャレコードをところどころに散りばめているのは、おそらく編曲家のアイディアだろう。

なお早見さん、作曲に関して影響を受けているのは2000年代のJ-POPのようで、Real Soundの記事ではフジファブリックやキリンジなど例に上げている。
『琥珀糖』も、どこか2000年代のJ-POPの雰囲気をまとっていて、夢子世代はちょっと懐かしさを覚える。

3. 『水槽』(1stアルバム『Live Love Laugh』より)

最後にもう1曲だけ、私の大好きな曲を取り上げたい。
「Live Love Laugh」に収録されている『水槽』だ。

作曲を担当しているのは、ClariS『コネクト』で有名な渡辺翔さん。
同アルバムに収録されているJAZZチューン『ESCORT』の作曲もしており、ちょっと切ないコード進行がお得意。

正直、早見さんとの相性は抜群だ。
アキバ総研のインタビューでは、ソロでは歌ったことがない曲調だったと語っているが、これがもうめちゃくちゃ早見さんの声にマッチしている。
ピコピコ音を使った軽快なリズム、盛り上げたかと思いきや、フワッとまとまるサビ終わりのメロディー。

そして何より、この名曲が4曲目に入っているところが完璧だ。
2曲目にデビューシングル『やさしい希望』、3曲目に2ndシングル『その声が地図になる』が続いた後の、4曲目だ。
何となく、CDを頭から聴いていた頃を思い出す。
今はYouTubeや配信サービスが広まって、有名曲ばかりがピックアップされて聴かれるようになってしまったけれど、CDが主流だった時代は、まずは1曲目から順番に聴くのが当たり前だった。
だからアルバムのカップリングは重要な立ち位置にあって、今よりももっと隠れた名曲が多かったように思う。

シングル発売楽曲を2、3曲目に入れて、その後にスパイスとして名曲を繋げる…。
並び順だけでCD時代を思い出して、グッときてしまう。

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長々と語ってしまったけれど。
一言でまとめると、早見さんの歌声に出会えて良かった。
そしてまだ早見さんの楽曲をちゃんと聴いたことがないという方は、是非カップリングまで含めて聴きこんで欲しい。

早見さんの魅力、まだまだ底なし沼な気がしてならない今日この頃である。

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