『JUNCTION』で重なり合った音楽が、『シスターシティーズ』で緩やかに紐解かれる ~早見沙織レビュー前編~

今年アーティストデビュー5周年を迎える早見沙織さん。
記念すべき2020年最初の作品として、5曲入りのミニアルバム『シスターシティーズ』をリリースした。

声優の枠組みに収まりきらない圧倒的な歌唱力と、作詞・作曲・ピアノ伴奏をも時に自ら手掛ける持ち前の音楽性で、ファンの度肝を抜き続けている早見さん。
本作『シスターシティーズ』は、早見さんの歌詞に、5人の豪華なサウンドクリエイター(田淵智也、NARASAKI、Kenichiro Nishihara、堀込泰行、横山 克)による色とりどりなメロディーが組み合わさったコンセプチュアルなミニアルバムとなっている。

『JUNCTION』の上に成り立っている『シスターシティーズ』

2018年12月に発売したアルバム『JUNCTION』は、早見さんの持つアーティスト性を前面に打ち出した作品だった。
自身で作曲を担当した楽曲が、14曲中10曲。ちょっとレトロなシティポップサウンドが、竹内まりやさん作詞作曲の楽曲とも程よく馴染み、1枚のアルバムとして”早見沙織サウンド”を確立していた。

以降も、配信シングルとしてリリースした『Statice』やライブツアーで歌った『カーテン』など、創作活動を続けていた早見さん。しかし『シスターシティーズ』には、自身の作曲した曲は収録していない。
『JUNCTION』が「早見沙織が想う“早見沙織サウンド”」であったならば、『シスターシティーズ』は「豪華クリエイター陣が想う”早見沙織サウンド”」なのだ。

もしも『JUNCTION』が存在しなければ、『シスターシティーズ』はただの「豪華クリエイター陣が作った声優さんのミニアルバム」だった。
でも実際には、自分で作曲をできる早見さんが、あえて作曲をしないで自分らしさを表現するという、より難解なことに挑戦しているのだ。

道の合流地点、という意味の『JUNCTION』。
姉妹都市、という意味の『シスターシティーズ』。
『JUNCTION』で重なり合った”早見沙織サウンド”が、今一度『シスターシティーズ』へと紐解かれていく。
紐解かれても、いやむしろ紐解かれたからこそ、”早見沙織サウンド”はより強固なものへとなっていく。

“声優界のアーティスト”から”アーティスト界の声優”へ

『シスターシティーズ』の裏テーマの1つとして、「旅」というワードが超アニメディアのインタビュー等で挙げられているが、早見さんを“声優界のアーティスト”から”アーティスト界の声優”というより広い世界へ旅させる作品にもなった。

実際に本作を契機に、数々のラジオ番組に出演をした。
声優関連のラジオのみならず、どちらかというと音楽リスナーの多いようなラジオ番組にもいくつも出演していたのが印象的だ。

やはり理由としては、本作に参加しているクリエイターの1人である元キリンジ・堀込泰行の名前が大きいだろう。

ここで簡単にキリンジについて紹介する。
元々は堀込高樹と堀込泰行の兄弟で結成されたグループだ。2人それぞれが似ていつつも異なる声、音楽性、そして才能を持ち合わせていることから、活動当時から「兄派」「弟派」の議題でファンは何時間でも酒を交わしあった。
現在、弟・堀込泰行はソロアーティストとして活動。「キリンジ」という名義は、兄・堀込高樹を中心とした5人バンドに引き継がれている(なお2020年中にバンド体制は終了する予定だ)。

以前からキリンジのファンを公言している早見さんだが、「兄派」でもあり「弟派」でもあるようで、兄・堀込高樹が率いているバンド編成のライブに行ったこともあるという一方、弟・堀込泰行の楽曲も繰り返し聴いているという。NHK-FM「夜のプレイリスト」でキリンジを特集した際には、7曲のうち3曲が堀込高樹作詞作曲、残りの4曲が堀込泰行作詞作曲の曲だった。

そんななか遂に今回、弟・堀込泰行による楽曲提供が実現。
ラジオ番組でのウケは最高だ。
あまりアニソンのイメージがなかった堀込泰行が声優に楽曲提供をして、しかもその声優がなかなかのキリンジファンなのだから、音楽リスナーもそりゃ気になる。
堀込泰行のラジオ番組「RADIO CHEERS!!」はもちろんのこと、おそらく”堀込泰行”の名前で出演が決まったラジオ番組も多かったのではないだろうか。

どのラジオ番組も、最初は何となくアウェーの雰囲気が漂っているものの、生歌を披露してしまえば一転。
音楽リスナーの間にも早見沙織の名前が届く、大きな機会となった。

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『JUNCTION』で重なり合い、『シスターシティーズ』で紐解かれた”早見沙織サウンド”は、遂にアーティスト界へも旅立った。
コロナウイルスの流行に伴いリリースイベント等が中止となってしまい、スタッフさんは歯がゆい思いをしていることだろう。
しかし例え理想通りのスタートダッシュが切れなかったとしても、必ず『シスターシティーズ』は幅広い層に届くはずだ。

ふと窓の外を見ると、人通りの少ない通り沿いで、桜の花びらにうっすらと雪が積もっているようだ。
非日常的な日常の中で、今日も私は『シスターシティーズ』を聴く。


▼後編はこちら▼


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