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英国ロックダウン前日に生まれた羊のロクシーとの出会い

春の牧場は出産ラッシュ。私の職場であるブレナム宮殿の敷地内では毎年3月半ば頃から羊の赤ちゃんが約2000匹ぐらい誕生し、今年も可愛らしい子羊が尻尾をふり回して飛び跳ねている姿があちこちで見れるラムのシーズンがやって来ました。

私と娘は3年ぶりに牧場にある羊舎を見学。

羊は双子を出産することが多く、三つ子を出産するケースも少なくはありません。三つ子で生まれた場合は1匹だけ小さく未熟児で誕生する子がいたりします。

2週間前に私達が見に行った時はすでに双子や三つ子の子羊は誕生しており羊の産婦人科医院のような羊舎の大部屋にはお腹に1匹だけ子羊がいる出産間近の妊婦さん羊が100匹ほどいて、未熟児や障害を持って生まれた子羊用の部屋、産後にホルモンのバランスが崩れて授乳拒否している母羊と子羊の個室、悲しくも死産で子羊をなくした母羊と3つ子で生まれた子羊の1匹との養子縁組を試みている部屋などがあって、そこの大部屋で出会ったのが初めての出産を控えた(上の写真の羊)2歳の羊ロクシーです。

羊飼いの主任チャールズがバケツに餌を入れて持って羊舎に入ってくると、1匹の妊婦さん羊が嬉しそうに跳ねながら他の羊を跳ね除けて勢いよく私達の所にやって来ました。

「この羊は特別な子なんだ初めての出産を控えたロクシーだよ。」とチャールズに紹介され、「Hello ロクシー!」と頭をなでなですると嬉しそうな顔をするロクシー。

まるで飼い犬のように人になついていて可愛くて、こんなに人になついた羊に会うのは初めてなのでビックリでした。

ロクシーは2年前コロナが拡大してイギリスが最初にロックダウンした2020年3月の慌ただしい中、ロックダウン前日に3つ子の一匹として未熟児で誕生しまだ立ちあがることも出来ず母親のミルクを自分で吸うことも出来きない小さな子羊だったそうです。

1年で一番忙しい羊の出産ラッシュのシーズンに入った時にイギリスは国中がロックダウンになってしまい、ソーシャルディタンスングの規制で最低限の人数のスタッフしか羊の出産を手伝う事が出来ず、通常ならば未熟児で生まれた子羊にボトルでミルク与えて世話をする羊飼いの見習いのアシスタントがいるファームですが、ロックダウン中は羊の産婦人科病院のような羊舎でさえも入れる人数規制があったため羊飼いの主任は生まれたばかりの未熟児の2匹の子羊を自宅へ連れて帰り自宅でボトルでミルクを与え育てることに。

2匹の生まれたばかりの未熟児の子羊を家に連れて帰った羊飼いは2匹の子羊に2時間おきにボトルでミルクを与え、ファームに行っている間は羊飼いの家族が子羊の世話をし2匹の子羊は羊飼いの家族からいっぱい愛情を与えられてすくすくと元気に育ちロックダウン後に牧場に戻りました。

それから、私の職場では年に2回クリスマス前やイースター前になると広大な敷地内で生まれて育ったラム肉をスタッフはスタッフ割引で購入することができるのですが、働き始めた最初の年、同僚から一度ブレナム宮殿のラム肉を食べたら他のラム肉は食べれなくなるよ。と聞いていたので私もスタッフ割引でラム肉を購入することに。

ラム肉の注文方法

ええっ!何グラムではなく1匹単位で注文?!!

ラム1匹 もしくはラム半分???

30年以上イギリスに暮らしていても今だに時々大きなカルチャーショックを経験することがあります。このラム肉の注文書を見た時は久々に大きなカルチャーショックを受けました。

子羊1匹か半匹かという単位でお肉を購入する。

私にとってかなり衝撃的で、生まれて初めてラム肉を半匹を注文した私はラム肉を取りにファームへ行く日は、一体どんな感じでお肉を引き渡しされるのか?興味津々でワクワクしながら行きました。

上品で綺麗なブレナム宮殿のギフト用のボックスを両手で受け取り、なんだかお肉を購入するイメージとは違って、まるでベビー用品の贈り物を受けとったような感じ。

もしかして箱の中には可愛い子羊が入っているのでは?と思いながら箱を開けると、日本のようにお肉が細かくカットされていたり薄切りされているわけでもなく、子羊を解体した状態というかラム肉のかたまり肩肉1個、もも肉1個、ラムチョップが10個、首肉1本がそれぞれ真空パックされ紙に包まれて中に入っていました。

初めてブレナム宮殿のラム肉を食べた時の感想ですが、ラム肉独特の匂いが全くなく、お肉がとても柔らかく口の中でとろけるような食感で、何これ???これがラム肉?それまではスーパーなどで買って家で料理したラム肉やレストランで食べたラム肉の食感と味しか知らなかったので広大な土地でオーガニックの環境でのびのびと育ったハッピーなラム肉に感動。脂身の付き方が普通のラム肉とは違って全体にバランスよい風味の良いラム肉と表現した方が分かりやすいかもしれません。

こんな感じで今までは美味しいブレナム宮殿のラム肉を毎年購入して食べていたのです。

それがロクシーと出会って、、、

私と娘がロクシーのいる大部屋を離れようとするとロクシーがサクの近くまで来て私達を呼び止め、またロクシーのそばへ行って頭をなでてあげると嬉しそうな顔をするロクシーに何度も引き止められ、なかなか羊舎を離れることが出来くて、ロクシーにまた会いに来るからね!元気な赤ちゃんを産んでねとロクシーに言って何度も振り返りながらロクシーに手を振り羊舎を後にしました。

広大な牧場を自由にぴょんぴょん飛び跳ねている可愛らしい子羊達を見ながら、こんな人になついた可愛らしい羊のロクシーと出会い心のふれあいを経験した後、今後もラム肉を食べれるかな?

今年もラム肉注文する?

どうする?と娘と話しながら複雑な気持ちで帰宅したのでした。

私にとってロクシーとの出会いは羊に対する理解と興味がより一層深まり、益々羊が大好きになった反面、大好きだった美味しいラム肉を食べる意味を考えさせられ罪悪感も感じたりしながらも、羊のロクシーと出会えた事に感謝しています。

先週再びロクシーに会いたくて先週牧場へ行ってきたのですが、残念ながらロクシーとは会えませんでした。すでにロクシーは羊舎の中には居なくて無事に元気な男の子のラムを出産し牧場の方でハッピーママで子育て中とのこと。

でも、また別の記事で2000匹の羊の中からロクシーを探してを書くかもしれません。今回はロクシーに大切なことを沢山教えてもらえた気がします。

では、また

宮下ゆめ子












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